経団連くりっぷ No.99 (1999年4月8日)

国際熱核融合実験炉(ITER)日本誘致推進会議(会長 豊田名誉会長)/3月26日

欧州はITER建設に対する日本のイニシアチブを期待

−核融合開発に関する欧州調査団報告をめぐる懇談会


経団連では、日米欧露の4極で推進するプロジェクト「国際熱核融合実験炉(ITER)」の日本誘致に取り組んでいる。ITERをめぐっては、昨年、アメリカが計画からの撤退を明らかにする一方で、EUの第5次核融合政策計画(FP5、1998〜2002年)が策定されるなど、協力の枠組みに大きな影響を与える事柄が相次いだが、科学技術庁では、こうした情勢の変化を踏まえ、欧州各国の核融合政策を調査すべく、1月31日から2月11日まで、ベルギー(EU)、フランス、イギリス、イタリア、ドイツの各国に調査団を派遣した。国際熱核融合実験炉(ITER)日本誘致推進会議では、欧州調査団の宮健三団長(東京大学教授)ならびに科学技術庁の今村努審議官、日本原子力研究所の吉川允二顧問、岸本浩理事ほかを招き、調査団の報告を聞くとともに、ITER計画の今後の課題について意見交換を行なった。

  1. 宮健三教授説明要旨
    1. 欧州のITERに対する考え方
    2. 欧州は、核融合研究に日本の倍の年間650億円の予算を投じ、研究者は4倍の2000名近くいる。欧州では、ITER計画に基づく活動についてこれまでに得られた成果に高い評価を下しているが、同時に、従来の設計では、コストがあまりにも高いとの認識を持っている。そこで、現在、アメリカを除く3極が工学設計活動を延長して取り組んでいる「低コストITER」の設計・建設の方向を支持している。政府レベルではITERを欧州域内に建設することについて、サイト地域の負担分に耐えうる資金を出すことは困難であるとの認識を持っているが、地域振興、基盤整備の問題もあり、可能性は残している。EUとしてはITER建設に関する日本のイニシアチブを期待しているが、日本に立地する場合の懸念材料として、生活・文化の違いや情報入手の困難さ(言語の違い)などを挙げている。欧州産業界としては、欧州域内でのITER建設を強く希望しており、関係極の産業界相互の意見交換を進めたいとの意向を持っているようだ。
      アメリカの計画からの撤退については、高速増殖炉など過去のプロジェクトの経験から「アメリカによくあるパターン」「国内事情」と冷静に受け止めていたが、一方で、再度の協力に期待する声も多かった。

    3. 核融合研究開発全体の状況
    4. 核融合開発をめぐっては、日欧露とも政治的な要因から停滞ぎみである。EUでは2002年末までの第5次核融合政策(FP5)におけるITERに関する記述が、従来に比較してトーンダウンしており、建設の正式な判断はFP6が開始する2003年以降でなければできない情勢にある。日本では2000年まで、財政構造改革の集中改革期間にあたり、誘致は凍結されており、ロシアも自国に立地する情勢にない。
      現在の工学設計活動は2001年7月まで延長され、その後建設段階に移る予定だが、欧州が建設を判断できる段階まで待っていては、2001年7月から2003年1月までの間が空白期間となってしまう。
      そこで私見では、今こそ日本が誘致を表明し、2001年7月から独自にITER建設に入ってはどうかと考えている。その後、他の極が遅れて参加し、参加極が増えるにしたがって建設期間が短縮されていくというかたちにすればよいのではないか。

  2. 今村審議官説明要旨
  3. ITER計画については米国が99年7月以降、撤退するものの、昨年10月の4極会合で日・EU・露の3極でも工学設計活動を継続することを確認し、2001年7月までの工学設計活動延長協定に署名している。わが国のITERに関する今後の進め方については、核融合会議での3回の集中審議を経て、原子力委員会が「3極で工学設計活動を継続・完了すべき」との結論を出した。本年3月10〜11日のITERに関する4極会合では、第1に特別作業部会を設け、具体的な建設計画の検討を開始し(第1回会合は5月中旬、東京で開催)、本年末までに報告書を作成することとなった。また「低コストITER」に関する2つの設計案(従来の設計の約55%のコスト)がITER所長から提案され、コスト低減化に関する技術ガイドラインを満たすと確認された。さらに欧州よりさらなるコスト削減を図るための設計案(従来の設計の約40%)について検討の要請があり、その可能性を検討することとなった。欧州の要請には、欧州域内における建設可能性を高めたいという意向が強く表れていた。加えて、これら設計案の絞り込みについて検討を行ない、本年中に概要設計を完成させること、アメリカより、本年7月以降も物理R&Dおよび中心ソレノイドモデルコイル試験への参加を継続する意向であるとの説明があり、3極はそれを歓迎する意向であることなどを確認した。

    今後はまず、3極により、建設コストの低減化(約50%)を目指した3年間(2001年まで)の工学設計活動を実施する。それと並行して、ITERの建設に関して、わが国として具体的な判断ができるよう、その要件(コスト分担、ホスト極のインフラ、協力の法的枠組み、建設/運営主体のあり方等)の明確化を図るための検討を特別作業部会で進める。

  4. 意見交換
  5. 今村国土・住宅政策共同委員長:
    文化や言語の違いは、どれほど懸念材料となるのか。

    宮教授:
    アメリカの研究者に比べて、欧州の研究者は日本を「エトランジェ」の国とみる傾向が強い。

    篠崎資源・エネルギー委員長:
    コスト低減に向けた設計オプションについては詰めた検討が必要である。

    今村審議官:
    原子力委員会の下に設置されているITER計画懇談会でも同様の指摘を受けており、議論いただく予定である。

    古川副会長:
    工学設計活動終了後、円滑に建設に入るためには、相当のリードタイムを置いて建設の決定をする必要がある。

    今村審議官:
    欧州も現行のFP5期間中(〜2002年)にFP6の策定を行ない、最終的な判断をする見込みである。

    前田評議員会副議長:
    ITERについては日本は世界に冠たる技術を持っている。「技術立国日本」にぜひ誘致すべきである。


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