経団連くりっぷ No.99 (1999年4月8日)

通信・放送政策部会(部会長 倉地 正氏)/3月11日

21世紀に向けた通信政策のあり方


通信・放送政策部会(部会長:倉地正東京三菱銀行専務取締役)では、技術革新やグローバル化、ユーザーニーズの変化等を踏まえ、情報通信事業発展のための環境整備のあり方を検討する予定であるが、検討開始にあたり、21世紀に向けた通信政策のあり方につき、ネットリサーチの竹内代表取締役より説明を聞いた。

  1. 政策のあり方を決める3つの要素
    1. 技術の変化
      デジタル技術の発展を背景として、ネットワークを流れる情報の単位が共通化されたことにより、今まで別々だった通信、放送、情報処理業界が融合し、相互に競争しつつある。

    2. 規制の変化
      政府による国営時代には主観的な裁量行政が許されたが、現在では、通信事業は民営化され市場には競争が導入されているため、行政・規制の透明性を高めることが必要である。行政・規制に透明性がなければ、事業の先行きが不透明になるため、事業者側が無駄な投資を恐れ、十分な投資が行なわれなくなるからである。行政当局のCATV政策の転換により、NTTの通信回線を利用することが可能になり、大資本が従来のフランチャイズを統合し広いエリアで効率的な運営を行なうことが可能になったため、結果的に、当初からのCATV事業者は多額の無駄な投資をしたことになった。規制は事業推進の邪魔にこそなれ、推進力にはならなかった。
      また、技術の融合により、業界の融合が進んでいることから、業界毎の規制ではなく、業界横断的な共通規制とすべきである。

    3. グローバル化
      通信サービスのグローバル化に伴い、独占の定義を見直す必要がある。市場が独占状態か否かは、競争の可能性、すなわち、真っ当な努力をすれば勝てる可能性が残されているかどうか、をみて判断すべきである。現在、世界中でメガキャリアが出現しているが、一連の動きは、グローバル化による市場の拡大に対応しようとするものである。今後、通信分野の競争政策は、国内市場だけではなく、グローバルな視点から論じる必要がある。巨大な企業が、自国で大きな利益をあげて、他国で不当に安価なサービスを提供すれば、世界的な視点で捉えた場合、必ずしも合法ではないかもしれない。世界的な独占監視体制を構築するとともに規制・制度の国際的な平準化を行なわなければならない。

  2. 政府・産業界の役割分担
    1. 政府の役割
      政府は、通信弱者の救済など社会政策の遂行に専念すべきである。この問題については、原則的に産業界が責任を持つ必要はなく、政府が責任を負うものである。社会政策については細心の注意が必要である。

    2. 産業界の役割
      産業界においては、自己責任・自治・革新を原則とすべきである。政府と産業界とは、健全な緊張関係を保っていくことが望ましい。

  3. 当面の課題
    1. NTT独り勝ち
      郵政省は、事業者の数が多いのは通信自由化が進んでいる証拠と説明しているが、数多く存在するNCCのうち、NTTと勝負できるものはない。
      また、現状では、通信分野の競争政策の基準が明確になっていない。郵政省においては、英国をはじめとする欧州で行なっているように、顕著な市場支配力(SMP:Significant Market Power)を定義し、該当者には非対称規制を課すなどの政策を施すことが必要である。同時に、公正取引委員会においても、通信市場における独占的状態の基準を定義すべきである。市場支配力の定義が定まれば、一個一個の動作、作業レベルでの行政指導がなくなり、NTTにとっても、自らの行動パターンを自分で決められるというメリットが生まれる。

    2. 相互接続料
      欧米においては、事業者に対し、過去の非効率な投資によるコストを保証していないため、非常に安い相互接続料金が定着している。独占時代には、過去の非効率な投資によるコストを料金に反映させることが許容されていたが、いまや通信は競争市場であり、その必要はないという考え方になっている。安い接続料金の設定は、世界的な流れになろう。ところが、接続料金が安すぎると、敢えて自力でネットワークを敷設する事業者がいなくなってしまい、いつまでもNTTの市内網に依存した状態になるため、結果的にNTTの得になる。したがって、相互接続料は安ければ安いほど良いというものではない。産業界においては、最終的に高速のデジタル市内網を構築するための政策を提言していただきたい。

    3. ユニバーサルサービス
      ユニバーサルサービスとは、誰もが安い料金で電話サービス、あるいはインターネットサービスを利用できることを保証する、通信弱者対策の仕組みである。日米両国ともに、ユニバーサルサービスは、独占という特権の代償として義務化していた。しかし、今や通信は自由競争になっているため、NTTはいつまでも独占の代償を義務づけられるべきではない。ユニバーサルサービスは、原則的に政府の責任であり、事業者たる産業界の義務ではない。郵政省はユニバーサルサービス基金の設立を検討しているが、行政の肥大化防止のため、その範囲は最小化し、基金は政府の責任で集めるべきである。

    4. 電波入札制
      NTT民営化以降は、消防、電力供給、海難とは異なり、電波そのものを経営資源として商用目的で利用しているため、電波入札の考え方に合理性が出てきている。米国においてはすでに電波入札制がとられており、英国でも導入される見込みである。日本においても、電波の入札制度の導入を検討すべきである。外資規制が原則廃止されたことにより、将来的には、外国の事業者が日本の電波を落札することもありうる。


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