経済戦略会議は、2月26日、「日本経済再生への戦略」と題する最終答申を小渕総理に提出した。そこで経団連では、3月31日に経済広報センターと共催で「日本経済再生に関するシンポジウム」を開催した。当日の参加者は、約500名にのぼった。
経団連として、経済戦略会議の答申の実現を全面的に支援していくとともに、日本経済再生と産業競争力強化のため、構造改革を引き続き推進していきたい。
経済戦略会議の提言の実行については、大変重い責任を痛感している。政府としても、各種の環境整備や制度改革に取り組み、民間活力が思う存分発揮できるよう最大限協力したい。
経済戦略会議は、8月24日に8条機関として発足し、2月26日に最終答申をとりまとめた。答申では、これからの10年間を、
日本の政策立案プロセスは、霞ヶ関官僚に独占されていた。その周辺の政治家、ジャーナリズム等を含めたサークルを「政策産業」とみなせば、日本の「政策産業」は「国際比較劣位産業」である。産業強化には競争原理の導入しかない。その意味で、経済戦略会議の設置は、政策立案プロセスを多元化するための試みと意義づけることができる。
20世紀後半は、歴史的にも異常に高い成長を遂げた奇跡の時代であって、その奇跡を守る仕組みしかないのが現状である。これを建設的に壊す仕組みをつくる必要がある。経済戦略会議の提言も、そうした観点からフォローアップすることが重要である。
答申では、2001年に2%の成長軌道を回復する「再生シナリオ」を描いた。しかし同時に、従来型の公共投資や減税などを行なうだけで構造改革が進まなかった場合の「停滞シナリオ」も書いた。わが国が有するリソースを活かし、再生シナリオ通り「2%成長」が達成されれば、35年後、つまり約一世代で生活水準が2倍になるが、1%を下回り、例えば0.8%になると、2倍になるまで100年、つまり約三世代かかることになる。従って、この2年間が非常に重要である。
実体経済の悪化を受けて積極的な財政出動が行なわれたが、このような状態は持続可能ではない。経済回復後の2003年度以降には、相当思い切って財政再建に取り組まなければならない。
努力した人が報われるフロンティア型の社会であればこそ、セーフティ・ネットが必要である。適切なセーフティ・ネットのある競争社会というのが、米国型でもなく欧州型でもない、わが国独自の「第3の道」なのではないか。また、自分の能力を磨くことこそが、最大のセーフティ・ネットであり、その点で教育が重要である。
経済戦略会議の提言は、60兆円の金融システム安定化策、緊急経済対策にかなり反映された。一方、構造改革はカネでは解決しない。制度疲労を起こしている秩序を新しいものに作り変えるには、英断が必要である。
日本では、マーケットメカニズムに対するアレルギーが強いが、中長期的には競争を促進し、個人、企業にインセンティブを与えていく必要がある。そうでないと人間は本気になれない。
これまでの審議会を中心とした政策立案メカニズムは、玉虫色の結論になりがちであり、また、政府の考えていることの全体像が見えない。戦略的な政策立案のメカニズムをつくる必要がある。
日本は戦後、本格的なデフレを経験していないため、デフレがインフレよりケタ違いに恐いことを知らない。経済戦略会議の答申が、デフレ回避を打ち出した点は、非常に重要である。
企業、個人から選ばれる国になるためには、将来ビジョンに基づいて規制緩和、行革を進めることが重要である。他方、例えば都市開発では、国家百年の計が必要である。答申では、住宅政策をもっと強調してほしかった。環状線内を高層化するなどして高度利用を進め、都心に住んで都心で働くことを可能にする、未来型社会資本整備のビジョンを政府は打ち出すべきである。これは少子化対策にもなる。また、住宅は消費税の対象から外すべきである。
答申は以下の5つの点で高く評価できる。第1は、提言が極めて具体的だったこと。第2は、スケジュールという時間の概念を導入したこと。第3は、競争原理に立った市場経済への過程で、政府がハード・ソフトのインフラ作りを主導することを明確にしたこと。第4は、改革に痛みが伴う点を明確にしたこと。第5は、単騎単発的な政策ではなく、複合的な対応が必要なことを明示したこと、である。
日本型の「第3の道」を模索するにあたっては、第1に、欧米と比較して際立っている不動産や過剰設備などのストックの痛みをどのように回復させていくか。第2に、人口が減少しているわが国が、人口が増加している米国を手本にできるか。第3に、官の関与が多すぎる経済社会から、事後チェック型へどのように切り換えていくか。第4に、中産階級国家であるわが国が、格差の拡大を容認できるか、ということがポイントである。
住宅に言及した部分が少ないのは、秋の緊急経済対策に住宅対策が相当盛り込まれたことも関係している。住宅取得に対する消費税については、今後再検討が必要であろう。「第3の道」については、まだよくわからないが、米国型の競争原理を取り入れつつ、敗者が再度頑張るインセンティブを持てるような仕組みが必要である。答申では、こうした観点から「職業再訓練バウチャー」などを提言した。
住宅政策については、都市再生、住空間に関する部分ではかなり触れている。職住接近を進めることが少子化対策の基本である。いずれにしても、子供を産みたい人が産める環境つくりが必要である。
魅力に乏しい都市にはヒト・カネ・情報が集まらず、デリバティブ等の金融ビジネスや情報関連産業等の高付加価値の都市型労働集約産業で競争力を持てない。東京の疲弊は著しい。日本経済の再生は、都市の再生にかかっていると言っても過言ではない。「都市競争力委員会」を創設して議論すべきだ。
多元的な政策立案を可能にし、国民的な議論を巻き起こす仕組みをつくり、建設的な議論を積み重ねていく延長線上に「第3の道」も見えて来るのではないか。その一環として、政府に経済政策担当の報道官を置くべきである。
答申にあたり、他人の顔色をうかがったことは一度もない。政治家も官僚も変わってきた。国の経済計画も、従来は5ヶ年計画しかなく、見直しも行なわれなかったが、今後は経済戦略会議の提言通り、毎年計画をつくり、しかも年央で見直しを行なうことになろう。