経団連くりっぷ No.100 (1999年4月22日)

アメリカ委員会(委員長 槙原 実氏)/4月5日

「99年版日米貿易白書とドアノック活動」


アメリカ委員会では、在日米国商工会議所(ACCJ)のグロンディン副会頭、およびウェストモア専務理事より、ACCJが3月に発表した「99年版日米貿易白書」の内容、ならびにACCJが実施している日米両国政府との対話活動(ドアノック)について説明を聴いた。

  1. 99年版ACCJ日米貿易白書について
    1. ウェストモア専務理事
    2. 1999年版では全38の産業分野を取りあげ日米間の貿易・投資上の問題を分析した。また個別産業分野の分析を補うものとして、現在の政治やマクロ経済の動向についても分析している。白書は財政刺激策など日本の景気対策を評価する一方、個別分野での問題解決が貿易・投資の拡大、ひいては景気回復にも重要であると指摘している。また日本政府が解決の努力を集中すべき主な構造問題としては目下GDPの1パーセント以内に止まっている対日直接投資や企業の買収・合併を促進すること、日本企業の組織、経営方針や財務状況などの真の姿が示されるよう会計や情報公開の基準を改善することなどをあげている。さらに保険分野では外国保険会社の市場占有率が依然、先進諸国中で最低の3.9%に止まっていることなどをあげ、幾つかの分野では、日米間の通商合意の実施が引き続き課題であると述べている。

    3. グロンディン副会頭
    4. 日米貿易白書はACCJの主たる出版物である。79年5月に初版を発行して以来、2年毎に発表している。白書の作成には約40程の委員会が携わっており、それぞれの委員会で、メンバーから日本市場の改善点、効率を高められる分野や試験・免許等制度上の問題点について日々のビジネス経験に基づく意見をインプットしてもらっている。白書はそれらの意見をわかりやすく生産的な形でまとめている。また白書とは別に1〜2ページの長さの意見書(viewpoints)も随時発表しており、会員が重要と考える比較的新しい問題について意見をまとめている。
      貿易白書の中で指摘した事項で経団連と協力できる分野としては、まず港湾、輸送、空港などの輸送コストの引下げがある。労働や雇用慣行の分野でも、米国企業のように行動しろと言うのではなく、より現実的な提案をしている。また租税分野では日米租税条約の改訂、移転価格など日本企業にとっても共通の利益のある課題を取上げている。その他、会見基準の国際化、弁護士などの専門職の数を増やすことや、対日直接投資の促進なども指摘される。

  2. ダイエット・ドアノック、およびワシントンDCドアノックについて
    1. ウェストモア専務理事
    2. 94年以来、ACCJは「ダイエット・ドアノック」と称して日本の国会議員や政府代表と日本でビジネスを行なうアメリカ企業が直面する問題について意見交換を行なっている。今年は3月10日から11日の2日間、ACCJの会員約40名が国会議員や政府高官と38回にわたり会見を行なった。今回は首相をはじめ高村外相、柳沢金融再生委員会委員長、堺屋経済企画庁長官、陣内法相、甘利労相などの閣僚とも会うことが出来た。これらの会議でACCJ側は、近年、市場アクセスを妨げる多くの公的障壁は減少したという印象を持っているが、依然、医療機器、保険、板ガラス、政府調達等において非公式な障壁が外国企業を苛立たせていること、過去15年間にわたり日米両国は市場アクセスの拡大や対日直接投資を促進させるための数多くの合意を成立させたが、ACCJの行った調査結果では、これらの合意の大半は米国製品の日本市場へのアクセス拡大において有意義な進展をもたらしていないこと、米国が考える規制緩和は、市場アクセスや消費者の選択肢を狭める規制や行政慣行を除去・撤廃することであるのに対し、日本における規制緩和とは、日本企業の国際競争力を高めるための施策を意味することが多いことなどを指摘した。
      また3月16日から19日にかけてはワシントンDCドアノックを実施し、上院・下院議員、ホワイト・ハウスのスタッフ、通商代表部、商務省、国防省等クリントン政権の政府高官との話し合いの場を持った。米国の上院議員や政府高官は日本政府の景気対策、不良債権処理策、金融システム安定化のための措置等については高く評価していたが、中には日本の市場開放の速度に苛立ちの念を示す人もいた。また日本、ロシア、ブラジル企業による対米鉄鋼ダンピングについて非難の声があがり、これが全体の雰囲気にマイナスの影響を与えた。

    3. グロンディン副会頭
    4. ワシントンDCドアノックは、ワシントンに行って相手方を啓蒙するのみでなく、われわれ自身がワシントンで今何が起きているかについて勉強する良い機会となっている。
      今回ワシントンに行って苛立ちを感じたのは、たまたま鉄鋼輸入に関する法案が通過する週にあたってしまったことである。ACCJからすれば鉄鋼問題は日本の対米輸出の問題なので余り関心がない。逆に、鉄鋼問題によってACCJがより関心をもっている日本の市場アクセス問題の解決に対する関心が削がれる傾向が見られる。
      現在ワシントンでは非常に奇妙な政治力学が見られる。議会少数派の民主党が提出した法案が10日間で委員会を通過し本会議に上程された。その際、法案を採択せぬようにとの委員長の勧告が付されたが、下院本会議で一部の共和党議員も賛成して可決された。法案はWTOの原則に反するので大統領は署名できないし、上院も通過しないだろうということを承知で下院は地元の選挙民向けに票を投じたのである。
      また鉄鋼問題を考える際、日本側は前月の数字を見るが、米国議会は直近の数字より、昨年夏からの政治問題を考える。米国における昨年夏からのフラストレーションは数字のみでは解消しない。政治家は来月はよくなるから昨年夏からの不満は忘れて欲しいとは言えないのである。昨日の問題を処理していかなければならないのが政治のプロセスであり、将来、こういう問題についてより良い解決策を考えないと、日米両国で不満が高まると思う。


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