経団連くりっぷ No.100 (1999年4月22日)

国土・住宅政策委員会 土地・住宅部会(部会長 田中順一郎氏)/3月30日

これからの街区・敷地形成のあり方


国土・住宅政策委員会土地・住宅部会では、政府の都市計画法抜本改正の動向を踏まえつつ、今後の都市政策のあり方について検討を進めている。3月30日には、東京大学大学院工学系研究科の浅見泰司助教授から「これからの街区・敷地形成のあり方」について説明を聴き、意見交換を行なった。

  1. 浅見助教授説明要旨
    1. 敷地細分化の弊害
    2. 現在、日本の土地は敷地が細分化されがちな傾向にある。敷地の細分化は採光や通風など建物の環境を劣化させ、建てづまり感を引き起こす。容積率の高い建物を建てることができないために、土地の有効利用が行なわれない。都心部で土地利用の効率が低いことは、開発のスプロール化を促す要因にもなる。
      これまでにもこうした問題点は指摘され、敷地の共同化の必要性が叫ばれてきたが、既得権の制限は困難であり、専門家の派遣、さらには地権者に対するモラルの形成、補助金による経済的インセンティブの付与などの誘導策もうまくいかなかった。今後、敷地の共同化を進めるためには、従来の取り組みに加えて、定期借家権の導入等により権利者の既得権を弱めるとともに、共同化を拒む場合には何かの代償を払わなければいけないような、共同化へのより強いインセンティブを形成することが一層重要である。

    3. 現行都市計画の3つの問題点
    4. そもそも既存の都市計画論はまず理想の都市像を描き、それに対応して都市計画を策定するというものであった。しかしこれは新規の開発には適しているが、既成市街地の再編には対応しにくい方法であり、時代の要請や地域の特質に応じた要請に対応できないという問題が生じている。実際の都市の状況を見ながら新しい原則を打ち立てることが必要である。
      まず第1に現在の都市計画制度には、「開発規模が大きければ大きいほど、民間側で提供すべき公共用地の割合が増大する」という「規模の原則」がある。この結果、大規模開発より小規模開発が有利になり、小規模開発が連担すれば、公共用地の不足は必至である。また税制も小規模な敷地に有利であり、小規模な開発にインセンティブを与える結果となっている。
      第2に現行制度は敷地単位の規制のみで隣接敷地相互の空間関係や集合関係のあり方など「集合の原則」がない。また法定容積率は敷地に一定率を乗じるものであり、敷地を供出すると容積率が減る仕組みとなっている。
      第3に、欧州では「計画なきところに開発なし」という建築不自由の原則があり、開発者は計画の策定を歓迎するが、日本では建築は自由なのが原則であり、計画の策定は自由を奪うものとして歓迎されにくい風土にある。私はこれを開発者の動機に適合する市街地更新のみが進むという意味で「動機適合の原則」と呼んでいる。
      これら3つの原則をパラダイム転換し、

      1. 規模にかかわらず公共用地負担割合を同じにする、
      2. 隣接地相互の空間関係・集合関係のあり方を含んだ制度を構築し、容積率規制をネット主義からグロス主義に転換する、
      3. 地権者との交渉コストを軽減する、
      という新たな計画体系を構築し、敷地の共同化を図り、土地の有効利用を図るべきである。

    5. 新たな計画の具備すべき特質
    6. 第1に、規模の原則を転換するために、例えば500m四方(小学校区)を一単位として必要な公共施設量(道路、公園、学校など)を定め、地区内の開発には、規模に関わらず、未整備分の面積割合を減歩するようにしてはどうか。こうすれば都市基盤整備が進んだ地域では減歩は少ない。
      第2に、交渉費用軽減のため、交渉方法を明示・限定すべきである。その際、一団地の総合的な設計を行ない、地区の基盤状況や環境条件を改善する場合には、柔軟な設計を可能とするのみならず交渉を有利にできるようなルールづくりが必要である。
      第3に、再開発事業を一団地化して進める場合、計画の質を評価して規制を緩和すべきである。
      第4に、街区の外周道路の中心線までをその街区の権利面積として定め、容積率や建ぺい率はこれに基準値を掛けるグロス主義規制を導入すべきである。街区内の空間利用権は区分所有化し、街区全体を運命共同体とすることによって、街区全体の計画の質が高まれば、街区の価値が高まる仕組みを導入すべきである。
      第5に権利調整にあたっての交渉決定権は単純な多数決によるのではなく、公共提供などを行なえば交渉力が高まる仕組みにすべきである。
      第6に、権利調整に反対する地権者が従来の用地を使い続ける場合、期間に応じて補償額を切り下げていくべきである。
      こうした対策を講じていくことにより、良好な街区・敷地形成が期待される。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    500m四方の住区の計画は誰が立案すべきだと考えるか。
    浅見助教授:
    自治体が住区の区割りを行ない、必要な公共施設の指定、権利の濫用の監視、計画の質の評価を行なうべきである。

    経団連側:
    街区内の空間利用権者相互は運命共同体の一員として互いの利用のあり方に対し議論をすることになるが、その調整は困難ではないか。
    浅見助教授:
    指摘の通りであり、パラダイム転換を具体化する上では、交渉動機が常に適正な方向にあるかどうかということが論点になる。

    経団連側:
    斜線制限や容積率規制の緩和、最近話題の天空率規制の提案についてどう考えるか。
    浅見助教授:
    斜線制限に明確な根拠があるわけではない。容積率規制にも明確な根拠があるわけではないが、環境維持や交通容量制限などに一定の隠れた役割を果たしており、直ちに撤廃とはいかない。採光の尺度としては天空率は評価できる。

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