経団連くりっぷ No.100 (1999年4月22日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/3月26日

各地における中心市街地活性化の取組みと課題


当部会では、一昨年来、関係省庁をはじめ自治体のまちづくり公社、民間の開発事業者等から、中心市街地の活性化を図る上で各地域が直面する課題等に関してヒアリングを行なってきた。昨年5月の改正都市計画法および中心市街地活性化法の成立等、一連の法整備を契機に、新しいまちづくりに意欲的に取り組む地域も増えている。そこで、当部会では、日経産業消費研究所研究員・『日経地域情報』副編集長の市川嘉一氏を招き、中心市街地活性化に取り組む各地域の現状および課題等について説明を聞き、意見交換を行なった。

  1. 市川副編集長説明要旨
    1. 中心市街地活性化をめぐる現状
    2. 中心市街地の活性化において、「街への誇り」、「街づくりに対する共感」、「ムーブメント」の3つが重要な役割を担う。中心市街地活性化を促進するためには、市民参加によるムーブメントの形成が不可欠である。住民がどれだけ中心市街地を守ろうとしているのか、地域アイデンティティの再発見が問われている。
      しかしながら、今日は、コンビニエンス・ストアの増加等に見られるように利便性追求の時代である。価格の安い大型郊外ショッピングセンター等への選好が強まり、中心市街地を守るための合意形成が困難となりつつある。

    3. 中心市街地活性化法の理念と現実
    4. 中心市街地活性化法の本来の理念は、街を1つのショッピングモールと捉え、魅力的な業種をテナントミックス等の形態で誘致することを通じて、店舗の新陳代謝を促進することにある。しかしながら、現在、法に基づきタウンマネジメント機関(TMO)から提出された事業構想を見ると、補助金獲得のためにアーケード改修やカラー舗装等を行なう従来型事業から脱却していないものが多く、体制整備が遅れているのが現実である。
      空洞化の進行が叫ばれているにもかかわらず、危機感を希薄化させている要因として、通産省・中小企業庁と商工会議所(商工会)が一体となった「護送船団体制」が挙げられる。従来型の体制を解体しない限り、構造的問題の解決は困難である。また、商店街整備や中核的商業施設の整備に関する事業計画を作成するTMOが、専ら自治体の第3セクターあるいは商工会のいずれかで組織されており、発想や行動に限界があることも問題である。
      わが国のタウンマネジメントにおいては、マネジャーは商工会等の担当者であるが、ドイツでは、街とは無関係の外部の20〜30代の若者が権限、責任を負いマネジャーとして活躍している。専門知識を尊重し、全国各地からマネジャーを募集することにより、利害関係のない第三者の視点から、街づくりを進めているのである。
      今後、先進事例であるドイツやイギリスの仕組みを参考にしつつ、権限、責任の移譲等がなされた、自立型の専門タウンマネジャーが認められるような行政風土の形成が求められる。

    5. TMO認定団体の取組み
    6. 具体的な事例研究として、98年度にTMOとして認定された6団体(佐賀市、長浜市、津山市、葛飾区、遠野市、彦根市)の動向を鳥瞰すると、ファサードや舗装等、基盤施設の整備への偏りや、都市計画法上の特別用途地区の設定がなかなか進まないといった点が認められる。本来、街づくりは都市計画と基盤整備、活性化等が有機的に連動すべきものであるが、都市計画的な視点が中心市街地法に基づく基本計画に十分に反映されていない。
      その中にあって、滋賀県長浜・黒壁の試みは、黒壁造りの文化・歴史およびガラス工芸の魅力、企業経営的発想等が功を奏した、民間主導の街づくりの成功モデルとして注目を集めている。88年、市民有志7人による黒壁の旧銀行建物の保存運動を契機に始まった街づくり運動が発端となり、89年、第3セクターとして街づくりの主体となる「黒壁」が設立された。これからの新事業展開は、環境リサイクルとガーデニングの結合等にシフトしていくと思われるが、脱観光客を図り、地元客を第一義とした対応をいかに進めるかが課題である。
      川越の場合、旧中心街である歴史と伝統ある一番街が再生した背景として、「蔵造りの街並みを活かした老舗専門店街」をコンセプトに、関係者自らが「街づくり規範」という協定書をつくり、商店街組合内に組織された「街並み委員会」の下、土地利用を含めて街づくりの基本的方向性を明確にしたことが大きい。
      これら成功例に共通しているのは、街への誇りが住民の間で共鳴し、ムーブメントを構築していることである。今後、地方分権の推進、環境保全、住民参画、行政評価といった新たな潮流を踏まえつつ、中心市街地活性化を図っていかなければならない。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    タウンマネジャーに、専門性のある地元の人間を登用することにも利点があるのではないか。
    市川副編集長:
    計画の進捗状況を従来型の行政風土に沿った形からだけではなく、第三者的な視点から監視する体制づくりが必要であると考える。

    経団連側:
    公共事業の一種として、中心市街地活性化にPFIを応用できないか。
    市川副編集長:
    PFIは、より民間が主導権を持つ仕組みであり、民間のイニシアチブと専門知識が不可欠である。

    経団連側:
    タウンマネジャーが考慮すべきは、都市計画、建築、マーケティングの3つであると言われるが、欧州と異なり、日本では自治体、市民とも都市計画に対するノウハウがなく、足枷となっている。
    市川副編集長:
    都市計画法と農地法との間に整合が取れていない。縦割行政の産物である無秩序な郊外開発を克服し、郊外部も含め一体的に都市計画を行なう必要がある。

    経団連側:
    インターネットの普及や在宅勤務の進展等に鑑み、都市の中心とは何かを問い直す時代を迎えているのではないか。
    市川副編集長:
    利便性が追求される時代にあって、それに対抗できる理念を中心市街地活性化にいかに結びつけるかが今後の重要な課題となろう。


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