経団連くりっぷ No.101 (1999年5月13日)

なびげーたー

ビジネスのルール作りと官民の役割

常務理事 藤原勝博


2000年WTOでは民間企業のより積極的な参加が求められる。

独ダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併、英BPと米アモコの合併、ドイツ銀行による米バンカーズ・トラスト銀行の買収など、国境を越えた大企業間の提携、合併のニュースは、今やあまりショッキングなものではなくなった。今年からEUの11カ国は共通通貨を発足させた。

このように、企業が国家の枠を越えて、提携、合併して活動する時代になると、一国の対外経済政策の決定や企業の事業活動をめぐる二国間あるいは多国間の政府交渉の仕組みが変化してくるのは当然であろう。現に、大西洋をはさんで、米国政府と欧州委員会は、ビジネス活動のルール作りと実践に際して、双方の関連する業界の民間企業同士の話合い、合意を尊重するという型をとりつつある。「大西洋ビジネス対話Transatlantic business Dialogue(TABD)」という民間企業の話合いが、年2回の米、EUの首脳会議に合わせて開催され、その合意を実行に移すというやり方が始まっている。

一方、日産・ルノーのケースのように日本の企業と欧、米企業の大型の提携、合併の動きも遅まきながら出てきている。欧、米企業間のルール作りの考え方がTABDの例に見るように変わってくれば、日本の企業や政府の方もそれに合わせた対応を迫られるようになってこよう。

経団連の貿易投資委員会では、2000年からスタートするWTOの新ラウンドへの対応を議論しているが、その中で政府間交渉を進める上での官民の関係がよく話題になる。国際交渉を車の運転になぞらえると、EUは政府と民間が共に前の席に座り相談しながら進む、米国は政府が運転席で民間企業が後部座席からおどしをかけつつ方向を指示する、日本の車には政府代表だけが乗っているか、あるいは民間が乗っていても後部座席で静かにしているというたとえ話を時々耳にする。反論も出ようが、言い得て妙という気もする。日本では官民の役割分担について長年にわたって培われてきた考え方がある。つまり、政府の方はルールに関する交渉はまさに政府の仕事であると考える。企業の方は、あくまでも政府の後方に立ち、政府に事情を説明し、陳情して交渉をしてもらうという考え方である。

しかし、2000年のWTO交渉あたりから、日本の官民の意識も世界の新しい流れの中で変革を迫られて来るものと思われる。

例えば、まず、官民の連絡協議会のような場を設け、交渉当事者の政府と交渉結果によって影響を受ける民間との情報交換をより緊密な、かつ双方向のものにする必要があろう。また、大西洋をはさんで欧州の民間の政策対話が、専門家はもとより、CEOレベルで活発に行われている事例をみるにつけ、日本の大企業も自ら外国の相手方と対話をし、合意をつくる習慣を取り入れていく必要があろう。そうなれば、経済団体、業種別団体の役割もまた変質していくことになる。


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