経団連くりっぷ No.101 (1999年5月13日)

国土・住宅政策委員会 土地・住宅部会(部会長 田中順一郎氏)/4月15日

防災の観点から見た都市づくり


国土・住宅政策委員会土地・住宅部会では、都市のリノベーションの必要性が高まっていること、都市計画中央審議会において都市計画法の抜本改正が検討されていることを視野において、都市政策のあり方に関する見解を取りまとめるべく、検討を進めている。4月15日には東京大学大学院工学系研究科の小出 治教授を招き、防災都市づくりの観点から見た都市計画のあり方につき、意見交換を行なった。

  1. 小出教授説明要旨
    1. 災害予知と防災都市づくりの経緯
    2. 1959年の伊勢湾台風をきっかけに災害復旧、救助のみならず、防災に関する法律が必要であることが痛感され、61年に災害対策基本法が制定された。同法は防災に関する中央防災会議、地方防災会議等の体制を整備するとともに、中央防災会議の作成する防災基本計画を中心として、防災業務計画、地域防災計画へと連なる計画体系について規定している。
      震災対策については64年の新潟地震を契機として開始された。人口流入が続く都市問題に焦点が当たっていたことも背景にある。
      地震対策と地震予知は表裏一体であり、対策の立案が開始されて10年程度は、当時広く知られていた関東大震災69年周期説を強く意識して対策が立てられた。東京都では、関東大震災級の震災による死者は50万人、被害は江東・墨田・荒川の下町3区に集中するとの予測を立て、防災対策の投資をこれら地区に集中した。江東区白髭東地区の再開発においては、後背地に川を配した都営集合住宅を屏風のように配置して、屏風の内側の防災拠点となる広場を火災から守るという計画を完成させた。もっとも他にも計画はあったが、住民対話を重視する美濃部都政の下では、合意形成に時間がかかったこと、また地震対策の重点が下町から山の手に移ったことから、他の計画はあまり進展していない。
      76年に、東大地震研究所が東海地震の可能性のある地域を発表すると、地震予知の推進と警戒宣言を含む大規模地震対策特別措置法が78年に制定され、東海地震に対する対策が打ち出された。一方、震源から遠い東京では、それまでの対策は過大に過ぎるとの批判を受け、防災対策の見直しが迫られた。
      80年代に入って、再度関東大震災が起きたらどうなるという議論が再燃した。従来のプレート型地震とは異なる直下型地震の危険性が叫ばれ、各地が調査を開始した矢先の95年に阪神・淡路大震災が発生した。

    3. 災害評価と都市計画との不連続
    4. 防災対策は地震予知とともに災害予測とも連動している。地震の際の人に対する被害は、橋や道路の破壊といった直接被害からよりも、火災など二次災害による影響が大きい。関東大震災では人的被害の大多数が火災による被害であり、東京都も、前述の下町再開発に加えて、不燃化した都内80カ所(現在は140箇所)の広域避難区域の設定を行なった。
      災害予測も火災の被害をどう見るかがポイントとなっている。現在、東京で最も大きな被害が予測されているのは環状7号線沿いの「木造密集市街地」であるが、火災による延焼可能性は木造建築物がどれだけあるかでは評価され、建築物が密集しているかどうかは関係がない。良好な市街地の形成に当たっては建蔽率が重視されてきたが、こと火災に関して言えば建物間の密度は影響しない。東京都では住宅地の多い西部の危険度が高く、また駅前の商業地ほど危険度は低い。このように都市計画の上では防災対策の一環として位置付けられている建蔽率と防災計画の基礎となる災害予測の評価とは十分連動していない。

    5. 不燃化の推進
    6. 防災対策の基本思想が不燃化であるとしても、全ての建築物を不燃化することは困難である。そこで77年以来、幹線道路により都市を区画化し、遮断帯(道路)によって地区相互の延焼を遮断する事業が推進されている。基本的には幅員を十分に取った都市計画道路で1キロ四方(100ha)の区画(防災生活圏)をつくり、それが困難な場合には沿道建築物の不燃化をするものである。現在、東京では平均6haずつが防災生活圏となっている。

    7. 阪神・淡路大震災の教訓
    8. 阪神・淡路大震災により不燃化の方向も変化しようとしている。直下型地震では100haが集中的に被害を受けることはなく、0.1ha単位の小さな火災が多発的に生ずる可能性が示された。これからは防災生活圏の細分化が課題となるが、骨格道路など公共事業でブロックを細分化することは困難である。
      今後の防災都市づくりに当たっては、個別の建替えのような私的な経済活動を公共がどの程度の選択肢を用意し、その成果に対してどの程度の支援を行なうかという戦略を立てることが必要である。また新しい技術、新しいインフラをどう取り入れ、都市の構造の面から都市計画を捉え直すことも必要である。火災被害偏重の災害予測のあり方も再考することが必要であろう。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    防災計画づくりを主導しているのは誰か。
    小出教授:
    地震学者と建設省の技術者集団であるが、公共での対応には限界があり、今後は民間の関与が不可欠である。

    経団連側:
    災害対策として最も効果的な措置は何か。
    小出教授:
    新耐震基準の建築物は阪神・淡路大震災の際にもほとんど倒壊しなかった。しかし、耐震基準に適合するように修繕するからといって公的資金は入らず、既存不適格への遡及は難しい。
    リスクマネジメントとしてリスクに関する多様な情報を公開し、住民参加で議論を深める必要がある。また被害を保険でカバーする仕組みも重要である。
    東京での災害時の東京外からの救援ルートは東京湾、あるいは幹線道路であり、防災対策としての実効性の観点から整備のあり方を考えるべきである。

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