経団連くりっぷ No.101 (1999年5月13日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/4月27日

中心市街地の活性化と都市再開発


4月20日、政府は、大店立地法に基づく「大規模小売店を設置する者が配慮すべき事項に関する指針(案)」を発表し、「大型店も地域コミュニティの構成員として自らの役割を認識し、積極的に貢献していく姿勢が必要」と訴えている。そこで地方振興部会では、イトーヨーカ堂店舗開発室第二不動産部の島村良一総括マネージャーを招き、大型店の市街地出店の実情と今後の課題について説明を聞き、懇談した。

  1. 島村総括マネージャー説明要旨
    1. 中心市街地の活性化と再開発事業
    2. 昨年、中心市街地活性化法、大店立地法の制定、都市計画法の改正が行なわれた。しかし、都市再開発法や区画整理法の課題は残されたままである。
      現在、再開発事業には、地上権を設定する原則型(都再法74〜82条)と地上権を設定しない特則型(同110条全員同意方式、111条縦覧方式)とがあるが、再開発地区の住民には土地の所有権に対する執着が強く、原則型で再開発を行なう事例は少ない。特則型の場合、土地・建物の所有が一体での共有となり、かつ処分には共有者の同意を得なければならないため、証券化による組成や保留床の処分が困難になっている。

    3. 再開発事業が困難な理由
    4. 当社は中心市街地の再開発事業に参加し店舗展開を行なってきたが、いずれの事業も基本計画から竣工までに10〜20数年、構想段階から数えると30〜40年かかっている。

      再開発に時間がかかる第1の理由は人材の不足である。再編が必要な地域にリーダーとなる人材が少ない。またコンサルタントも事業、都市計画、権利調整、設計、管理・運営を担当するコンサルタントが別々になっており、各コンサルタントの考え方が十分に整合していない。地権者は自分の権利が何に置きかえられ、どのような施設が生まれ、施設の生む利回りや権利処分の方法はどうなるのか、という全体像を知りたいのに、コンサルタントごとに意見が違うために不信感を招いてしまっている。またコンサル会社は小企業が多く、社員は身分が不安定で、十分な資金、時間がないために新しい発想に乏しい。また、コンサルタントは設計業務を受注しないと採算が合わないために、ハード中心で建物完成後の管理運営への配慮が十分でない業者が多い。
      中心市街地を活性化させていくためには、住都公団など国レベルで、コンサルタントの育成・支援を行ない、国土づくり、地域づくりの方針に沿って、コンサルティングを行なうようにすべきである。再開発事業では公共整備を伴う場合は都市局、それ以外の事業は住宅局の所管であるが、中心市街地活性化法で設立されるタウンマネジメント機関は、各省各局を横断的につなげ、商業、大店立地法、設計、都市計画、補償制度などを一体指導する体制が必要である。

      再開発に時間がかかる第2の理由は初動資金の不足である。再開発に向けては本組合設立前の準備組合段階で地権者の取りまとめ等、相当な労力を要する。しかし、準備組合は融資を受けることもできず、補助金も年間50万円程度の調査費が付く程度である。コンサル会社も費用を立て替える体力はなく、ゼネコン等が汗をかき、建築費に費用を乗せざるを得ない状況にある。また行政予算は単年度主義であるために、事業の進捗を抑制する一因となっている。再開発促進区域に指定したら、5年間分の予算をまとめて計上し、5年の間にいつでも使えるようにするなどの工夫が必要である。

      第3の理由は事業資金の不足である。駅前広場等の整備・道路の拡幅などの用地を権利床に組み込むために、保留床の処分代金が高騰し、処分先が見つからない場合がある。また行政施行の再開発の場合、建築費は積算方式を採り、最低価格の設定などにより建築費が高くなる場合がある。

      第4の理由は事業手法である。全員同意型の再開発は一人の反対があると進めることができない。また都市計画決定は施設計画が確定していない段階で行なわれることが多い。例えば容積率を上げる代わりに建蔽率を下げ、公開空地をつくる高度地区指定がされていると、1階のフロア面積が売上の決め手となる店舗側の条件とは合わないことがある。

      第5の理由は権利調整である。複雑な借地・借家権の調整は当事者間の交渉となるために民事裁判で10年以上を要することもある。所有権の上に借地権、借家権が乗っているわが国で権利を調整し、地権者を説得するのは並大抵のことではない。転出者への補償、地権者が再開発ビルに再出店するかという問題にも時間がかかっている。

    5. 再開発事業終了後の課題
    6. 再開発事業が終了し、施設が稼動し始めてから、その施設は区分所有法、管理組合規約などの下で運営される。住宅と店舗との複合建築物の場合、店舗管理組合の一員に過ぎず、外装、ガラス1枚の修繕にも管理組合の同意を得る必要がある中心市街地の活性化には、施設をつくることのみならず、時代の変化に対応し、施設・店舗の入れ替えなどを実施していく必要があるが、管理運営等に関するタウンマネジメント機関の役割は明確になっていない。
      駐車場は、公共駐車場となった場合、条例に従った運営となり、店舗のニーズに応じた精算方法、料金設定などの自由度に欠ける。公設民営化などの工夫が必要である。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    定期借家権の制定は権利調整のスピードアップにつながるのではないか。
    島村氏:
    現在は借家契約も満足に交わされていないことが多い。また借家権より営業権の補償の方が困難である。青果店が1階での営業権を主張しても、香水店の隣に青果店を置くわけにはいかない。借家権・営業権の補償ルール作りが必要である。

    経団連側:
    郊外立地に比べ中心市街地での立地は投資回収率が落ちるのではないか。
    島村氏:
    駅前など中心市街地では平日でも乗降客がコンスタントに来店する。しかし、オープン後3年以降に売上げを伸ばす郊外店に比べ、中心市街地の店はオープン後1〜2年目以降に売上げの伸びが低い傾向にあり、効果的なリニューアルが求められる。その際、管理組合の同意がネックとなる。


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