経団連くりっぷ No.102 (1999年5月27日)
経団連意見/5月18日
経済のグローバル化が進むなか、企業の国際的事業活動の予見性を向上させていくうえで、貿易・投資ルールの持つ重要性が従来にもまして高まっている。こうしたなか、2000年にはWTOの次期自由化交渉が開始されるが、同交渉の動向は、わが国企業の事業活動にも大きな影響を及ぼすものと思われる。そこで、経団連では、このほど標記提言を内閣総理大臣他に建議し、次期交渉を通じ、わが国産業界の利益に合致した貿易・投資ルールが形成されるよう政府に対し強く働きかけた。以下は提言の概要である。
- 次期WTO交渉への期待
WTO体制の強化は、わが国の通商政策における最優先課題の一つである。次期WTO交渉において、加盟国の貿易、投資を一層自由化するとともに、WTOの精神に反する保護主義的な貿易措置を抑止していく必要がある。
わが国産業界は、次期交渉ができるだけ速やかに妥結することを強く希望する。また、交渉分野としては、すでに決定されているサービス、農業分野に加え、
- 鉱工業品の関税引下げ、
- アンチ・ダンピングの保護主義的発動防止、
- 電子商取引の取扱いの明確化、
- 知的財産権の保護強化、
- 国際的投資ルールの整備、
- 紛争処理手続の強化、
が優先課題として取り上げられるべきと考える。
- 自由化交渉の推進
鉱工業品関税引下げ:
- 包括的な関税率引下げ交渉の実現を希望する。他の先進国が工業品をわが国と同等の関税水準まで引下げるとともに、途上国の高関税率や不十分な譲許率を改善する必要がある。
サービス貿易自由化交渉:
- 通信、流通、金融、建設、運輸を中心とした各分野における、外資出資比率の制限の緩和、役員・従業員の国籍・居住要件の撤廃、海外への送金規制の緩和など外国企業の拠点設立に係る制限の撤廃および法制度・同運用の透明性向上が重要である。
- 貿易、投資ルールの整備
アンチ・ダンピング(AD)措置:
- 保護主義的な発動の防止に向け、AD協定の見直しやAD委員会の機能強化を通じ、公正な価格比較、サンセット条項、調査手続きに関する規律強化が実現することを強く希望する。
電子商取引:
- 情報財のインターネット取引に関わる無関税措置の継続及びプライバシー保護等の枠組み整備が重要である。
知的財産権:
- 特許制度等の調和、特に、先願主義及び早期公開制度の国際ルール化と、途上国における知的財産権保護制度の整備の実現が重要である。
投資ルール:
- WTOにおける投資に関する国際的なルール構築を希望する。このルールを通じ、各国の外資規制、パフォーマンス要求、経営幹部の国籍の制約を可能な限り排除していくとともに、投資関連制度の透明性を確保していくことが重要である。
紛争処理手続:
- WTO協定の実効性担保と、加盟国の保護主義的措置の安易な発動防止のために、紛争処理手続を強化すべきである。
その他の課題:
- 政府調達制度の改善、非特恵地域に係る原産地規則の調和、地域貿易協定の審査強化、貿易手続きの円滑化が必要である。また、貿易と競争政策、貿易と環境等の議論の深化を期待する。
- 非加盟国の加盟促進
関税、知的財産権保護、外資政策などを含む貿易・投資制度を改善したうえで、中国、台湾、ロシアなどがWTOに早期に加盟することを期待する。
- わが国の通商政策の課題
二国間協定への取り組みの強化:
投資保護協定、租税条約、年金通算協定、相互承認協定などの二国間協定を推進するとともに、適宜見直しを行なう必要がある。また、二国間の自由貿易協定の実現に向け、具体的検討を行なう必要がある。
対日輸入の一層の促進:
対日輸入促進に向け、国内の規制緩和の推進、基準・認証制度及び検査・検疫制度の改善、途上国の輸出産業への技術支援の強化が必要である。
今後の通商交渉に望む国内体制整備:
WTOの次期交渉等にわが国としてより積極的な姿勢で臨んでいくためには、政府内で省庁の枠を超えた協力体制を構築するとともに、政府と産業界の連携を強化していくことが重要である。
- 官民の連絡協議会の設置:
- 次期WTO交渉に臨む日本政府と産業界との常設の意見・情報交換の場として官民の連絡協議会の設置を提案する。
- 「外国の貿易措置に対する救済申請制度」の確立:
- わが国においても、外国政府による貿易制限措置等により被害を受けた民間企業が政府に対し救済の申し立てをできるような透明で民主的な行政手続制度を確立すべきである。
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