経団連くりっぷ No.102 (1999年5月27日)

貿易投資委員会(司会 辻副会長)/4月27日

WTOを巡る最近の諸問題について聞く


貿易投資委員会では、WTO上級委員を務める松下満雄成蹊大学教授より、次期交渉で取り上げるべきテーマ及びWTOにおける貿易紛争処理の現状と問題点について聞いた。併せて、提言「次期WTO交渉への期待と今後のわが国通商政策の課題」(案)の審議を行なった。

松下教授説明概要

  1. 次期交渉で対象とすべきテーマ
  2. 次期WTO交渉では、交渉対象となることが既に決まっているサービス、農業などに加え、以下の分野も対象とすべきである。

    1. 投資:
      WTOにおいて多角的な投資ルール策定に向けた交渉を行なうことが期待される。その際、最恵国待遇と透明性を基本原則とし、内国民待遇については各国がそれぞれ約束表に記載する方式のサービス貿易一般協定を参考にすることが有益である。

    2. アンチ・ダンピング(AD):
      現在のAD協定には、広く消費者などの利益も含めてAD措置の妥当性を判断する「公益要件」が入っておらず、これを盛り込むべきである。また、迂回防止措置に関する規定がないなど改善すべき点が多い。

    3. 知的財産権:
      TRIPsの改正により米国の先発明主義を国際的な標準に調和させることが望まれる。また、特許、商標、著作権などに係る並行輸入の是非について各国の立場にばらつきがあり、解決が望まれる。

    4. 競争政策:
      WTOにおいて貿易に無関係な国内カルテルや再販価格などの問題について議論することは不適当である。

    5. 地域統合:
      如何なる地域統合なら認められるかというルールを明確化するとともに、WTOの審査機能を強化する必要がある。

  3. WTOの紛争処理(DS)
    1. DS案件の増加に伴い、現在の組織では対応が困難になりつつあることから、パネルの常設化、パネリストの増員などが提案されている。パネルを廃止し上級委員を増員すべきであるとの意見もあるが、二審性の維持は、公平な判断のために重要である。

    2. これまでのDS案件のなかで、酒税案件は国家が行ない得る租税政策の範囲について問題を提起した。また、ホルモン牛肉案件では、衛生・健康といった国民生活における重要な側面とWTOの関わりが争点となった。いずれも今後とも注目すべき論点である。

  4. 日本通商法規における産業界の提訴権
  5. 外国の通商上の措置に関し、わが国では民間からの提訴権が認められている分野は限られている。そこで、産業界の提訴権を明確化した手続をつくることが必要である。政府の裁量ではなく、法律に基づく透明な解決を目指すべきである。


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