経団連くりっぷ No.102 (1999年5月27日)

日本カナダ経済委員会(委員長 奥田 硯氏)/5月6日

財政均衡を達成し、好調を維持するカナダ経済


来る5月16日から18日、カナダのバンクーバーで開催される第22回日本カナダ経済人会議の結団式を開催し、外務省北米局の林景一参事官、ならびにマクドナルド駐日カナダ公使より最近のカナダ経済情勢と日加関係について説明を聞いた。

  1. 林 外務省北米局参事官説明要旨
    1. 安定的な政権運営
    2. クレティエン政権は、1997年6月の連邦総選挙で301議席中155議席の過半数を獲得し単独政権を維持した。年初の世論調査では47%の高い支持率を維持しており安定的に政権を運営している。しばらくは政局の動きもなく選挙の動きがあるとしても任期満了を迎える2002年6月までの1年から2年の間と見られる。ケベック州の分離独立問題は98年夏の最高裁判所判定や同年末の州議会選挙を経て、ブシャール政権が経済再建を当面の優先課題としたため小康状態にある。また外交面ではカナダは本年から国連安全保障理事会の非常任理事国に就任しており、アクスワージー外相の下、一層活発な動きを見せるものと思われる。

    3. 好調を維持するカナダ経済
    4. クレティエン政権は経済面でも相応の成果をあげている。93年度には史上最高の420億ドルの財政赤字を抱えていたが連邦公務員4万5千人の削減、各省庁予算の22%削減、農業等の補助金削減をはじめとする大胆な歳出削減により97年度には単年度の財政均衡を達成し、98、99年度2年連続で均衡予算を成立させた。GDP成長率も97年の3.7%に引き続き、98年にはG8諸国でもトップレベルの3.0%を達成した。これはアジアの景気停滞や年頭の氷結雨等の悪影響があったにもかかわらず、堅調な内需の伸びや対米輸出の好調に支えられたものである。
      政権にとって最大の懸案事項である失業率は94年には10.4%だったがその後漸減し、98年には8.3%にまで低下した。消費者物価上昇率も92年以降安定しており、96年の1.6%、97年の1.5%に引き続き98年は0.9%に抑制されている。
      金融面では98年カナダ・ドルが年初の70.2米セントから8月には63.3米セントまで下落し、米ドル建て資産の流出を招いたことが経済減速の一因となった。そのためカナダ中央銀行は公定歩合を5%から6%に引き上げ、その結果、カナダ・ドルは66米セント台まで回復し、その後弱含みながらも一応安定している。
      アジア経済の低迷にもかかわらずカナダ経済が堅調を維持している最大の要因は米国経済の好調である。カナダ経済はとりわけ米国への依存度が高く、今後の米国経済の動向如何ではカナダ経済も左右されることがありえる。

    5. 懸念されるカナダからの輸入減少
    6. 日加経済関係は基本的に良好だが、貿易面では98年、わが国の対加輸出が12.2%増加したのに対し輸入は15.3%減少した。カナダからの輸入減少の原因はわが国の景気低迷やカナダ側の主要輸出品目である木材、石炭等の価格低迷等である。カナダ側にとって、米国につぐ第二の貿易相手国であるわが国への輸出低迷は懸念材料であり、対日輸出の早期回復は政治的関心事項となっている。

  2. マクドナルド駐日カナダ公使説明要旨
    1. 産業は高度化・多様化、財政は健全化
    2. カナダは過去5年に実施した金利引下げ、歳出削減等の措置により、現在の世界経済の混乱を十分乗り切れる立場にある。特に歳出削減は成功した。また失業率も93年秋には11.4%だったが、現在7.8%にまで下がっている。インフレも十分コントロールされ、カナダは低インフレ国としての評判を確立している。
      他方、アジア経済危機の影響でカナダの対アジア輸出はかなり減少し、対米向け輸出の堅調で相殺されてはいるものの、ブリティッシュ・コロンビアを中心とする西部カナダは打撃を受けた。
      また、カナダ通貨も市場が過去のカナダのイメージに囚われて現在のカナダの姿を十分に理解していないことから、圧力を受けている。しかし、以下の点を考慮すればそうしたイメージは誤っていると言える。第1に過去5年、カナダのインフレ率は米国より低い率で推移していること、第2に財政赤字も解消したこと、第3に昨年の生産性の伸びはカナダの2.8%に対し米国は1.7%と米国を上回っていること、第4に天然資源等の一次産品輸出の総輸出に占める割合は80年の60%から現在では35%にまで下がっていること、そして第5に90年代ハイテク部門は雇用、生産高の面で他の産業と比べても倍の成長率を示していることである。
      最近発表された、8ヶ国64都市を比較した事業コストに対する比較調査結果においても、カナダは先進工業国の中でも最も事業コストの低い国であることが再確認されている。

    3. 今後のカナダ経済見通し
    4. カナダ経済は98年9.8%の成長を示した後、急激に成長が鈍化した。民間予測では実質GDP成長率を99年は2.1%、2000年は2.4%としている。それでも昨年12月の経済見通しでOECDはG7諸国の中ではカナダが最も急速な成長を示すとしている。また民間予測によると雇用面での成長は99年には1.8%、2000年には1.7%になっている。他方、消費者支出については99年、僅かな伸びしか予測されていない。GDPの60%を占める消費者支出が鈍化することは99年の経済失速の主因となるだろう。またカナダの輸出の85%を占める米国経済は99年には減速することが予測されており、カナダの輸出の伸びも抑制されるだろう。

    5. 大型経済ミッションの訪日
    6. カナダにとって日本は重要な市場であり、従来の一次産品の輸出先としてのみならず情報通信、航空宇宙、バイオ等のハイテク産業の輸出先としても潜在力が高い。カナダ政府は本年9月、クレティエン首相を団長とする大型経済ミッションを日本に派遣して、日本の経済界の協力を要請する予定である。


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