経団連くりっぷ No.102 (1999年5月27日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 田口俊明氏)/5月7日

日本経済の力強い成長はアジアと世界の安定に重要


去る4月29日から5月5日にかけて、小渕首相が12年ぶりに米国を公式訪問されたことを受けて、今後の日米協力を考える部会では、外務省の羽田浩二北米第二課長から首相訪米の模様や首脳会談の内容について説明を聞くと共に懇談した。

  1. 羽田課長説明要旨
    1. 日米首脳会談の成功の背景
    2. 今回の総理訪米は首脳会談も含めて成功したと考えている。米国の主要紙にも前向きな記事が掲載され、総じて積極的に受け止められた。その理由としては、4月にさまざまな分野の交渉を精力的に行ない訪米前にはほぼ話し合いが付いたこと、日本がそれ迄に積極的な経済対策を講じてきたことや、政治面ではガイドライン関連法案が衆議院を通過したことなどで日米をめぐる環境がよくなっていたことが指摘される。また米国経済が好調で第1四半期の成長率も予測を上回る4.5%であったことや、スーパー301条やタイトル7関連で板ガラスや保険につき、対抗措置を念頭に置いた特定がなされなかったことなどの影響もあろう。

    3. 日本の景気回復への強い期待
    4. 経済分野での小渕総理とクリントン大統領のやり取りは以下の通りである。
      冒頭総理より、日米経済関係は世界経済にも大きな影響を持つ特別な関係であり、世界経済のために日米で協力して役割を果たしたい旨の発言があった。これに対してクリントン大統領からは、日本経済の力強い成長はアジアと世界の成長と安定のために重要であり、米国だけではアジアの輸出を吸収できずエンジンは2つ、できれば3つ必要であるとの発言があった。
      続いて総理から日本経済の現状と、これまで日本が取り組んできたマクロ面での取組みを説明した。その中で日本経済は依然として厳しいものの、昨年夏の就任以来、緊急経済対策の策定・実施、今年度予算の早期成立と公共事業や減税のスピーディーな実施、金融システムの安定化策など、とりうる限りの措置を迅速かつ大胆にとってきたこと、その結果、最近では企業や家計マインドも改善しつつあり景気は下げ止まりつつあること、したがって今年は本格的解決に向けた正念場であり、99年度にプラス成長を確実にするため不退転の決意で取り組んでいることを説明された。
      クリントン大統領からはこうした措置を高く評価するとともに、景気回復に全力をあげることが重要であり、回復が弱いうちは刺激策をやめないこと、また金融問題について不良債権の速やかな処理が必要であることの指摘があった。また規制緩和について、日米間で実施している規制緩和対話を来年も継続したいとの要望があった。これに対して総理より、規制緩和は日本自身の問題として取り組んでおり、今年度末を目標に終了させるべく作業を続けたいとの発言があった。
      他方、二国間貿易関係については、大統領側から自由貿易を維持するためにも板ガラス、保険、自動車・同部品、政府調達といった既存の合意を着実に実施していくことが重要であること、鉄鋼については現在、議会において超党派で問題意識が持たれていることもあり、日本からの輸入が危機以前のレベルに戻ることが重要であるとの指摘があった。またAPECのEVSL(早期自主的自由化)の8分野をWTO交渉に反映させることが、APECの信頼性を守るためにも重要との発言があった。
      これに対して総理からはいずれも重要な問題であり真剣に受け止めていること、鉄鋼については米国市場に大きな変化がない限り輸出量は落ち着いた水準で推移するとみており、日米両国ともWTOのルールや国内法等に従った行動を取ることが必要であることが指摘された。

    5. 日米規制緩和対話
    6. 今回の訪米にあたって最後まで交渉がまとまらなかったのは、規制緩和対話の日米共同現状報告である。特に調整が難航したのは電気通信、医薬品・医療機器、流通、競争政策の分野であった。
      また、規制緩和対話は双方向性のもので日本側からも米国側への要望事項を出している。昨年の第1回現状報告では米国側措置は盛り込まれなかったが、今回は米国側も前向きに対応した。その結果、米国の駐在員子弟のビザ問題への取組み、再輸出規制、インターネット・サービスに係わる国際費用負担の公平な分担のあり方、米国のアンチ・ダンピング措置などについて米国側措置が盛り込まれている。これからも米国側の規制や制度で輸入・参入障壁になっているものがあれば、是非教えて頂きたい。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    通商交渉において米国はWTOなどのマルチ交渉に軸足を移したという報道があったがどう考えるか。
    羽田課長:
    スーパー301条やタイトル7に関する対応をみても、米国側は二国間で話し合って満足できる回答が得られなければ、WTOに持っていくと言っている。以前であれば報復措置を取ると言っていたことを考えると、米国もWTOを無視して、一方的措置は取りづらくなってきたということだと思う。

    経団連側:
    今回米国側からは金融政策面で要望はあったのか。また来年の大統領選挙に向けて貿易問題が政治問題化され、日本がスケープゴートになるおそれはないか。
    羽田課長:
    金融政策に関する指摘はクリントン大統領側からはなかった。個別問題が政治問題化するかどうかについては、米国の好景気がいつまで続くか、日本の景気がいつ回復するか、貿易不均衡がどうなるかによろう。大統領選挙の年に日本が突出して大きな貿易赤字を抱えていれば、問題がおこることもあり得る。

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