経団連くりっぷ No.102 (1999年5月27日)

金融制度委員会 企画部会/債権流動化専門部会 合同部会(司会 奈良久彌氏)/4月26日

バブル経済の本格清算と21世紀型金融システムの構築を

−経済戦略会議の提言につき伊藤委員・大前主幹から聞く


2月26日に発表された経済戦略会議の答申「日本経済再生への戦略」には、示唆に富んだ提言が多数盛り込まれている。金融制度委員会企画部会(奈良企画部会長)、債権流動化専門部会(牧部会長)では、4月26日、合同部会を開催し、同会議の伊藤元重委員(東京大学教授)、大前孝太郎主幹(王子信金副理事長)を招き、説明を聞くとともに意見交換した。以下は伊藤委員の説明の要旨である。

  1. 「奇跡の時代」から「普通の時代」へ
  2. わが国は、戦後からバブルが崩壊するまでの間、「奇跡」ともいえる高成長を遂げてきたが、これを支えたのは、メインバンク制、土地本位制、借地借家法、終身雇用などの、「日本的」といわれる独特な制度であった。しかし、わが国が低成長の「普通の時代」に移行するのに伴い、こうした制度・仕組みの抜本的な見直しが不可避になっている。見直しのポイントは、現在不稼動化・固定化している資金・金融・不動産・労働などの資源の有効活用である。

  3. 今後の金融の方向へ
  4. まず、金融システムについては、解決すべき問題点が2点ある。第1は、過剰借入(over borrowing)である。高成長時代の企業は、規模の拡大を指向し、土地を担保に銀行借入を続けてきた。その結果、わが国の貸付残高は、GDP並みの約500兆円に達し、地価の下落によって含み益が消失する中で、金融機関の著しい体力低下を招来した。第2は、株式の持合である。銀行は、平均して自己資本の2倍の株式を保有するという不安定な資産内容となっている。こうした問題により麻痺している金融仲介機能を早期に回復させるには、間接金融システムを補完・代替する「マーケット」を介した新しい金融仲介チャネルの拡大が求められる。そのような観点から、マーケットと資金供給者をつなぐ投信会社、マーケットと資金調達者をつなぐノンバンク等の活躍が期待される。

  5. 不動産の流動化・証券化の促進へ
  6. 一方、土地・不動産については、「保有するための資産」ではなく「有効活用し、収益をあげるための資産」であるとの認識に立つことが重要である。不動産の有効活用という観点から、優良不動産の流動化施策が重要である。地域を限定して都市開発と組み合わせた土地流動化の戦略的パイロット・プロジェクトを実行することも必要であり、例えば、国公有不動産を使って、これを実施することも検討に価する。また、個人に関しては、60歳以上の高齢者が保有する資産が全資産の約7割、かつその4分の3が土地・建物であることに鑑み、保有不動産を活用した、リバース・モーゲージのような仕組みの導入も検討すべきである。


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