国土・住宅政策委員会 土地・住宅部会/地方振興部会 合同部会(司会 田中順一郎氏)/5月7日
国土・住宅政策委員会の土地・住宅部会(田中順一郎部会長)、地方振興部会(金谷邦男部会長)では、大都市圏のリノベーション、地方振興の観点から都市政策のあり方について検討している。5月7日には両部会で共通の課題として指摘されている「都市開発と住民の同意・参加」をテーマに弁護士業務の傍ら東京都の土地収用委員なども兼ねる日本大学法学部の関哲夫教授から説明を聞き、懇談した。
都市開発は、計画性、開発主体や手段の多様性に特色があるが、この特色に応じて、
都市計画に関して何らかの住民参加を認められている例は次のとおりである。
まず第1に計画段階での審議会、公聴会、計画案縦覧・意見書の提出などは、役所主導で、住民の実質的な参加とはいえず、諸外国に比べても不十分、と批判されている。
また、いったん計画が発表されると、これを変更することは困難である。判例は、計画の処分性(個々の国民の権利義務への影響)を否定し、住民からの取消訴訟を門前払い的に却下することが多い。また個別処分の段階に入って、事業認定、収用委員会裁決、仮換地指定、建築不許可、行政代執行などが行なわれれば、処分性は認められ実体判断がなされるが、原告(住民等)の勝訴率は1割以下である。
空港建設など公共事業の施工段階においては、附近住民は、事業の性格が非権力的か、権力的かによって民事訴訟法上の工事中止仮処分申請、または行政事件訴訟法上の行政処分の執行停止申し立てのいずれかの手段をとることができる。このうち、前者は比較的認められやすいのに対し、後者は要件が厳しく、ほとんど却下されている。
住民参加の第2の手法として、国家賠償請求訴訟の提起がある。大阪空港の夜間離着陸差し止めに関する訴訟(最判昭和56.12.16)では、差止請求は却下されたが、損害賠償が認められ、結果的に夜間の離着陸はできなくなった。
第3の手法として、住民監査請求や住民訴訟がある。これは、住民が、自らの居住する地方公共団体に代位する形で、地方公共団体の長等の損害賠償責任を追及するものであり、株主代表訴訟に似た構造を持つ。
第4の手法として、直接請求(特に解職請求)があるが、これも主として地方公共団体の長等の責任を問うものである。ただ、条例制定改廃の請求は後に述べる住民投票条例の制定を促す目的で利用されている。
また、法律に基づかない手法として、地方公共団体が開発指導要綱等に住民の全員同意条項を定めることがある。しかし、裁判所はこうした要綱行政に批判的であり、法的効力を否定する傾向にある。
地方公共団体が住民投票条例を制定し、住民投票を行なうことがあるが、法的な効果はない。しかし吉野川の可動堰の問題に見られるように、政治的には大きな意味を持つ。積極的に開発上の措置を求める未来志向の参加手法としては、住民投票しかないというのが実情であり、今後の動向が注目される。
都市開発をめぐる近年の動きとしては規制緩和、地方分権及び民間委託が特徴的である。規制緩和については、第1に、許認可の整理削減、容積率、建蔽率、地下室の特例など建築制限の緩和措置など実体法の見直しが行なわれている。第2に、適正手続の保障による規制の緩和がある。行政手続法の施行により許認可の申請権が保護され、行政指導の濫用を防ぐため、その規制規定が盛込まれた。行政手続法は法律に基づく処分については地方公共団体にも適用される。また地方公共団体は、行政手続法に準じた措置をとるべき努力義務を課されているので、次第に各地方公共団体は行政手続条例を制定しはじめている。判例(最判昭和60.7.16)は、行政手続法施行前に、行政指導による許認可処分の留保に厳しい態度をとっており、東京都が建築確認処分を6カ月間留保したことを違法とした。しかし上記判決は例外として「申請の拒否が社会通念上正義の観念に反すると認められる特段の事情があるとき」には留保を許容するものとしているので、役所側はこの判断を拡大解釈するきらいがある。
民間委託の例として、建築確認事務における指定確認検査機関がある。
地方分権については、機関委任事務の制度が廃止され、都市計画分野での市町村の権限が拡大するなど、地方への事務移管が近く実現する見込みである。しかしよほど地方が腹を据えて取り組まなければ制度的な課題も中央集権の構造は変わらないだろう。特に、交付金、補助金など財源配分の見直しが不可欠である。