首都機能移転推進委員会 企画部会(部会長 橋本 章氏)/5月12・13日
政府の国会等移転審議会は、今秋、首都機能移転先候補地を決定する予定である。そこで、当委員会では、東京都との連携、移転推進の戦略、新首都の機能等につき議論を深めるべく、静岡県の首都機能移転候補地の視察を行なうとともに、拡大企画部会として標記セミナーを開催した。会合には、国土庁の清水郁夫首都機能移転企画課長および三菱総合研究所の平本一雄取締役・社会環境研究センター長を招き、それぞれ、国会等移転審議会の議論の状況、首都機能移転を実現するための戦略について説明を聞き、意見交換を行なった。
現在、審議会においては、国土・社会構造の再構築、交通アクセス、土地取得等の9項目の基準に従って、地域毎の詳細な調査が実施されている。既に、地形の良好性、景観、火山災害による影響等に関しては、専門家による検討を終えており、引き続き、即地的な詳細調査を通じて、地域の相互比較・総合評価を行ない、移転先候補地を選定する予定である。併せて、11府県の地方公共団体から現地の状況等につきヒアリングも行なったところである。
また、「新時代の幕開けとなる新都市像」と題するパンフレットを配布したり、全国9ヵ所で移転問題に関する公聴会(現在まで6回終了)を開催する等、世論喚起のための広報・普及活動にも取り組んでいる。
今年度は、本年2月より発行しているニュースレターを全国に配布し、審議会や公聴会の議事録も速報で公開していく。さらに、コンピューター・グラフィックを用いて、一般国民が新首都のイメージをシミュレートし、新首都のあり方について提案することが可能な双方向的システムの構築を検討している。
今日のわが国は複合不況、政治・行政不信等による先行き不透明感に覆われている。産業の高い潜在能力にもかかわらず、経済の活力が失われ、優秀な企業、人材が海外に流出する危機的状況が顕在化している。
従来のキャッチアップ型の国造りから創造的社会へと改革すべき大きな転換期にあるものの、わが国は歴史的に、黒船来航ないしは第二次大戦敗戦等の強い外的条件の存在抜きに国家再生を図った例はない。それゆえ、人心一新のための原動力は、もはや首都機能移転に拠るより他はない。
東京の震災発生可能性は、
物理的一極集中と併せて、「東京が全てにおいて一番」という心理的一極集中を是正することが不可欠である。明治から今日に至るまで、地方から東京に優秀な人材が集まり戻らないため、地方の活力が吸い取られるという構造を転換しなければならない。首都機能移転は、東京模倣型の地方振興ではなく、地方都市が個性と創造力を発揮できるよう、均衡の取れた多極分散型国土を形成する契機となろう。
移転反対の理由として、移転に要するコスト(10数年で12兆3,000億円)がしばしば挙げられる。しかし、都は公共施設等に10年間で16兆円を投資しているにもかかわらず、都政改革に効果が出ていない。また、地下鉄12号線の開発を含め、2010年以降の10年間で4.5兆円の更新費が必要となる。
新首都に機能を移転し、跡地を有効活用することで、困難な東京改造を実現でき、さらに地方に連動した新しい国造りに役立つことが期待される。
4.1兆円の公共投資は、ゼネコンや不動産業のみを潤す即効的な効果を狙うものではない。PFI(民間資本を活用した社会インフラ整備)方式の導入等が民間投資の呼び水となり、32.2兆円の波及効果が見込まれており、世界をリードする技術と新産業の育成が、長期的に、わが国の環境・技術等に多大な恩恵をもたらすであろう。
新首都の基本理念、首都経営戦略を議論し、どのような首都ができるのか、より具体化することが必要である。
日本の進むべき方向を示すことと新都市のあり方は併行して議論すべき課題である。
首都機能移転に関する国民的な関心をまず高めることが先決である。
新都市の利便性が高すぎない方がむしろ地方の発展につながる。
移転を推進していくには、強力な政治的なリーダーシップが何よりも必要である。
東京都サイドには、「既得権」である首都機能が東京から出て行くことに対する危機感がある。一地方自治体と国家とは違うレベルであり、経団連もそれを踏まえたスタンスで臨むべきである。
首都機能が移転した後、東京はどのように変化するのか、分かり易いシミュレーションを具体的に明示することが重要である。