経団連くりっぷ No.103 (1999年6月10日)

国土・住宅政策委員会(委員長 古川昌彦氏/5月24日)

提言取りまとめに向け、国土・住宅政策委員会を開催


当委員会では、本年6月を目途に都市政策に係る提言を取りまとめるべく、現在、土地・住宅部会、地方振興部会を中心に検討を重ねている。そこで、当委員会では、日債銀総合研究所開発研究部の伊藤和博上席主任研究員を招き、「不動産の証券化等の意義と課題」について説明を聞いた。また、併せて、3月に英独仏各国に派遣したPFI海外調査団の報告書の概略について報告が行なわれた。

  1. 伊藤上席主任研究員説明要旨
    1. わが国における不動産の証券化の歴史
    2. わが国の不動産の証券化は、1980年代半ばに登場した不動産の小口化商品に始まり、94年成立の「不動産特定共同事業法」を経て、特定不動産への共同投資スキームの健全な発達が図られるようになり、収益不動産だけでなく宅地造成事業等の開発事業への応用も可能となった。
      2001年を目途とした金融制度改革は既に始まっている。1,200兆円の個人貯蓄の効率的運用を目指す資産運用競争の時代を迎えている中、本年6月には「特定目的会社(SPC)による特定資産の流動化に関する法律」が制定され、不動産の証券化に対する1つの方策として、同法に基づくSPCの活用が検討されるに至っている。

    3. 新たな金融環境下での不動産証券化をめぐる2つの方向性
    4. 従来は、間接金融およびコーポレート型金融が主流であったが、資産担保金融と集団型投資スキーム(ファンド)が主流の新しい金融においては、資金運用者がファンドの持分(株式、信託受益権等)に投資し、さらに、ファンドが貸付債権や証券市場を通じて証券(株式、債券等)に投資したり、実物市場に投資して資産運用を行なうケースが見られるようになっている。
      不動産の証券化をめぐる方向性については、以下の2つが考えられる。すなわち、資金調達を目的とし、資産担保証券とノンリコース・ローンから成る資産担保金融、および、金融的な不動産集団投資スキームと不動産的な不動産集団投資スキームから構成され、投資家の資金運用を目的とした集団的投資スキームのファンドである。

    5. 資産担保金融について
    6. 資産担保金融においては、当初の不動産所有者であるオリジネータとSPV(SPC法に基づく特定目的会社)が存在する。オリジネータがSPVに対して不動産を売却する際、SPVはその購入に当たって、借入や社債発行等、元利金支払いが他に優先して支払われることが事前に約束されている方法(デット)と、株式発行やSPC法の優先出資証券等、デットに比して支払(配当)が劣後している方法(エクイティ)等を通じて資金調達を行なう。さらに、SPVは当該不動産をテナントに賃貸し、受取った賃料から必要経費を差し引いたネットキャッシュフローを、デット調達の利息等の支払に充当する。そして、その残りは配当としてエクイティ投資家に支払われる。
      企業本体が資金調達して事業を行なう場合と異なり、こうした複雑な構造を有する資産担保金融は、仕組み金融と呼ばれる。その目的は、

      1. 企業本体の財務体質改善を通じた市場評価の向上、
      2. 企業リスクの限定と専門性の追求、
      3. レバレッジを効かせた投資、
      4. 新規のビッグチャンス、
      にある。
      但し、不動産という資産自身のリスクと信用補完、仕組みに関するキャッシュフロー等のリスク、法務税務リスク等の内在リスクについては厳密に監視する必要がある。

    7. 不動産の証券化を推進する上での課題
    8. まず、証券化等の制度に関しては、今後の金融サービス法の制定やオフショア商品の国内制度への影響等を考慮しなければならない。制度が全く未整備な不動産の集団的投資スキーム(不動産ファンド)については、新制度を早急に創設する必要がある。また、特定不動産の資産担保金融については、SPC法や不動産特定共同事業法等の改正を急ぐべきである。
      次に、対象資産等については、借地借家法と賃貸慣行、瑕疵担保責任と不動産保険等、従来の不動産事業に関する諸制度・慣行等が、投資家にとって予測不可能な要因となるおそれがあり、今後、検討を重ねていくことが必要である。
      さらに、仕組みの担い手となる証券販売業者や投資家の不動産に関するノウハウの欠如の解消に当たっては、不動産管理業務の改革を推進し、つくることが優先される社会から維持・管理が重視される社会への転換を図られることが重要である。
      不動産の証券化は、不動産や不動産金融の流動化を通じて、投資家資金の運用多様化、都市開発の推進、土地政策手段の多様化等を促進する重要かつ有効な手段の1つであり、わが国の従来型の諸制度の弊害を見直す機会も提供するものである。
      今後は、特にリスクマネーの集団的活用に焦点を当て、貯蓄と投資の不均衡打破を目指すとともに、情報の非対称性によるモラルハザードの防止策について、情報開示を進め、多様な手段を活用する必要がある。また、審査・モニタリング機能を一極集中型から格付機関、アナリスト、信用補完機関等に分散させ、充実を図るべきである。

  2. PFI海外調査団報告書について
  3. 98年5月に、議員立法によりPFI推進法案が衆議院に提出されて以来、英国において先進的なPFI(民間資本を活用した社会インフラ整備)に対する関心がわが国でも高まりを見せ、本通常国会での成立が期待される。
    国土・住宅政策委員会のPFI推進部会においても、本年3月に英独仏各国に海外調査団を派遣し、現地で政策担当者や民間事業者等、20ヵ所を訪問し、PFI推進に当たっての諸課題等について精力的に意見交換を行なった。
    今村共同委員長よりPFI推進法案をめぐる現況について説明があった後、鈴木PFI推進部会長より、調査団の報告書について概要説明がなされた。


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