経団連くりっぷ No.103 (1999年6月10日)

アジア・大洋州地域委員会(委員長 熊谷直彦氏)/5月13日

ABAC日本委員への支援体制整備が急務

−APECならびにABAC(APECビジネス諮問委員会)に関する説明会を開催


2000年から始まるWTOの新ラウンドを控え、APECも国際世論形成の場として重要な役割を果たしている。わが国経済界として、APECならびにABAC(APECビジネス諮問委員会)に関する動きについて理解を深め、ABAC活動にいかに取り組んでいくかを考えるために、外務省経済局の渋谷實審議官、通産省通商政策局の古田肇経済協力部長、ABAC日本委員の松下電器産業の松下正幸副社長ならびに富士総合研究所の楠川徹理事長より話を聞いた。

  1. 今年のAPEC活動とわが国経済界への期待
    1. 外務省 渋谷審議官 報告要旨
    2. 5月5日から7日まで第2回高級事務レベル会合(SOM II)がニュージーランドで開催された。
      早期自主的分野別自由化(EVSL)については、昨年から残った6分野(食品、油糧種子、民間航空機、肥料、ゴム、自動車)についてもWTOに移すことで実質的に合意をみた。その移行の仕方については意見の相違があるが、EVSLはもはやAPECにおいて大きな問題ではなくなっている。
      議長国のニュージーランドは、アジア経済危機に対するAPECとしての対応を今年の活動の柱の1つとしており、とりわけ市場機能の強化、その一環でもあるキャパシティ・ビルディング(能力構築)に焦点を当てようとしている。日本もその点については同意しており、具体的に、アジア経済危機に関するシンポジウムの開催、構造改革のための人づくり、APEC地域の企業基盤強化という3つの提案を行なった。シンポジウムについては、今年7月に東京で開催し、経済危機の原因と教訓および東アジア経済成長のための課題等を議論する予定である。
      各国・地域政府は、「ビジネスのためにならなければ意味がない」という観点からAPECに取り組んでいる。昨年以降、APEC活動は見直しの時期に入っているが、そのためにも産業界からのインプットが不可欠である。特に円滑化について産業界の意見を求める声が多くのメンバーから聞かれた。

    3. 通産省 古田経済協力部長 説明要旨
    4. APECは緩やかな地域協力体であり、そこでは、コンサーテッド・ユニラテラル・アクション(協調的自発的行動)が基本となっている。つまり各国・地域が他国と協調しながら自発的に行動するというアプローチである。APECメンバー国・地域間には大きな差があり、多様性に富んでいるため、コンサーテッド・ユニラテラル・アクションが協力体として存在するための唯一可能な手段と考えられる。このような原則の下でAPECは活動してきたが、発足後10年経った今、APECは何を達成してきたのかが問われている。緩やかな協力体として、強制ではなく自発的に各メンバーの行動を促すことと、具体的な成果を求めることの間にディレンマが存在する。また、ASEAN、ASEM、G7、G8等との絡みでAPECの独自性も問われている。
      "APEC is Business"というものの、APECがどうビジネスのためになっているのかが不明確なことが問題である。ビジネスとの関係が描きやすいものとして、電子商取引、Y2K(コンピューター2000年問題)等を挙げることができるが、これらの問題にできるだけ多くの民間の声を反映させたい。今後もビジネスとの関係強化はAPECにとって重要な課題である。
      ABACの中には、特定の国の利益をABACの意見としてAPEC首脳に伝え、実現を図ろうとする動きがある。ABACはAPECの代理戦争的な様相を呈している。このような場はうまく利用すべきであり、また放置しておくと他国に利用されるおそれもある。
      わが国の経済界からも積極的に要望を出し、その実現の手段としてABACの場を使って欲しい。また、3人のABAC日本委員は、個人の資格で参加しているが、実質、国の代表とみなされる。日本の経済界の利益に繋がるよう、3人の委員を支援して欲しい。政府としても引続き支援したい。

  2. 今年のABAC活動とわが国経済界の役割
    1. 松下 松下電器産業副社長 説明要旨
    2. 昨年4月から委員を務めているが、実際に会議に参加してみて、大変な重責を担ってしまったと認識している。各国・地域のABAC委員が、自国・地域あるいは自社の利益とも見えるものの実現に向けて積極的に提案してくる。ABACは、APECの諮問機関から、政府間交渉の前哨戦に性格を変貌している。また、独自のプロジェクトを立ち上げたりもする。会議は、通訳なしで英語で行なわれるため、非英語圏からの声は弱くなる。
      アメリカでは、ヒト、モノ、カネの面でABACメンバーに対する強力な支援体制が整っている。アメリカの官民連携を参考に、わが国でもABACメンバーを支援するためのコア組織を緊急に整備する必要があると思う。

    3. 楠川 富士総合研究所理事長 説明要旨
    4. ABACの場では、議題と関連する業界から意見を聞くことがますます必要になっている。そこで、各業界の方に協力していただくとともに、経団連に対しても日本メンバーの支援体制の整備をお願いしてきた。
      ABACはAPECの民間諮問機関との位置付けであるが、各国と貿易・投資に関する交渉をすることも多い。特に一部先進国のメンバーは、このシステムをてこに、自らの利益実現を図ろうとする。他方、途上国は、この場を利用して先進国からの協力を取り付けようとする。
      多国間通商交渉における民間の役割という観点からみると、日本は遅れている。米国では、関係業界が意見を整理し積極的に提案してくる。欧州産業界にも、欧州サービス・ネットワークが発足した。このように欧米で民間サイドの組織化が図られている中、日本にそのような組織化の動きがないことに危機感を覚える。日本国内にもABAC活動をサポートする組織ができることを強く望む。


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