経団連くりっぷ No.104 (1999年6月24日)

なびげーたー

企業の社会貢献活動の新たな潮流

社会本部長 田中 清


深刻な不況の中で、企業の社会貢献活動も、資金難など多くの困難に直面している。こうした中で、各企業の担当者は、さまざまな工夫を凝らして、その継続、発展のための努力を続けている。逆境の中での創意工夫が、21世紀における社会貢献活動の一層の充実につながるものと期待される。

この10年を振り返ると、企業の社会貢献支出は、経団連の調査では、一社平均、寄付と自主的なプログラムを含めて、1990年度の4億3,800万円から、91年度に5億2,500万円に急増したあと、94年度まで減少を続け、その後は微増に転じ、97年度には4億1,400万円となっている。この数字からみる限り、社会貢献活動が企業の中で定着しつつあることを示しているといえよう。しかしながら、98年度については、戦後最悪ともいえる不況の中で、厳しい状況に追い込まれている、と思われる。

こうした中で、各企業は、社会貢献事業について、さまざまな工夫をこらし始めている。

  1. どの分野にも万遍なく資金拠出するのでなく、経営理念や社風、事業の特徴などにそって、支出する分野を絞る傾向が強まっている。数ある社会問題の中でも福祉に限定する、あるいは、芸術の中でも、現代アートのみを支援する等である。各企業が同じような分野に関心を持っていたのでは、それから外れた分野には資金が流れないことになる。
    各企業が、それぞれ独自の判断で、重点分野を決めて支出し、その結果、経済界全体としては、社会の多種多様なニーズに応えて社会貢献活動が展開されている状況が望ましい。

  2. 企業の社会貢献活動は、以前、そのほとんどが、資金提供という形で行なわれていたが、これに制約が強まった現在、企業は、施設、製品、人材等多様な資源を提供して、社会に貢献しようとしている。例えば、難病で入院している子どもに付き添う家族のために社員寮を提供したり、経理等の専門家を内外のNPOに派遣するといった事例である。これらは、直接的な資金拠出以上に社会の側から評価され、感謝されている。

以上述べたような新しい動きとともに、今後、企業の社会貢献のありかたに大きな影響をあたえると思われるのが、新しい会計制度の導入である。今後、連結会計、時価会計、税効果会計、年金会計が次々に実施されるが、これらはいずれも、企業活動の全体像を正確にディスクローズするという発想にたっている。企業の社会貢献活動についても、積極的なディスクローズが求められるようになろう。株主に、きちんと説明し、理解が得られるようにしていく必要があろう。例えば、企業のイメージアップや製品の広告効果といった観点からの説明である。そのためには、企業に協力を求める市民の側も、企業の論理を十分理解し、企業を説得できるだけのプレゼンテーション能力を持つ必要がある。


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