経団連くりっぷ No.105 (1999年7月8日)

国際協力プロジェクト推進協議会(会長 春名和雄氏)/6月18日

官民連携による対外経済協力の推進に向けて


国際協力プロジェクト推進協議会では、第10回定時総会を開催し、1998年度事業報告、収支決算および1999年度事業計画、収支予算につき審議、承認するとともに、河野俊二東京海上火災保険会長の当協議会新会長就任および岸曉東京三菱銀行頭取他計4名の理事・認定委員就任が披露された。引続き来賓の藤田公郎国際協力事業団(JICA)総裁より「官民連携による経済協力の推進」について説明を聞いた。

藤田国際協力事業団(JICA)総裁説明要旨

  1. はじめに
  2. 経済協力における官民連携について語るとき、かつてはマスコミ中心に「官民癒着」というネガティブな側面から捉えられる傾向が強かった。実際、かつてそのような不幸な事態が生じた例も存在し、今後、同様の事態が生じないよう注意して注意しすぎることはない。
    しかし、経済協力は大部分において官民の相互補完の下、途上国の開発に貢献している。実際ここ数年ODA援助に対する前向きかつ建設的な意見が学界からも多く出されつつあり、関係者の1人として喜ばしく思っている。

  3. ODA予算とJICA
  4. 平成11年度ODA事業予算のうち、無償資金協力は2,379億円であり、債務救済無償、文化無償、災害救済無償を除いた分(無償資金協力全体の約7割)をJICAが管轄している。技術協力予算については3,794億円である。
    なお、行政経費や補助金等、無償資金協力にも有償資金協力にも分類されないものはすべて技術協力予算に分類されているため、結果として技術協力予算のうちJICAが管轄しているのは5割弱であり、残りは17の省庁によって管轄されている。
    しかし、専門家派遣、開発調査等の実質的な部分はJICAが管轄しているといって過言ではない。もっとも、今後とも調査公害等「タテワリ」によって生じる弊害を取り除いていく努力は必要である。
    有償資金協力は海外経済協力基金(OECF)が管轄している。昨今の円借款のアンタイド化に伴い、日本企業の受注率が3割弱になっていると伺っているが、10億円を超える大規模プロジェクトにおいては日本企業の受注率も高い。

  5. JICAの業務と「官民連携」
  6. JICAでは以下に挙げる業務を実施しているが、その際民間セクターとの連携は不可欠である。

    1. 研修員受入事業
      同事業は、途上国の技術者、研究者、行政官を研修員としてわが国に受け入れ、知識・技術の移転を行なうものである。97年度実績では、581のコースで9,500人強の研修員を受け入れた。現在も、民間企業との連携でコンピューター2000年問題に関する研修等を行なっている。

    2. 専門家派遣事業
      同事業は、途上国にわが国から人材を派遣し、その技術・ノウハウを移転するものである。96年秋に経団連国際協力委員会の国際貢献・人材派遣構想部会(当時)が出した政策提言に基き、97年度より「民間セクターアドバイザー専門家派遣」が実施されている。
      同スキームは技術協力予算を活用し、わが国民間企業から途上国に人材を派遣、その技術・ノウハウを移転するもので、派遣先、分野等は経団連・外務省・JICAの3者協議によって決定している。これまでに、物流、空港運営、電力等の専門家が派遣されており、規模は小さいものの、着実に実績を挙げており、途上国からの評価は高い。

    3. 青年海外協力隊事業
      同事業は、20歳から39歳の青年を途上国に派遣し、草の根レベルの協力を行なうものである(年間1,000名程度、うち女性50%強)。現在は新卒者、退職者等が中心であるが、民間企業の人材も積極的に派遣したいので、各社において休職制度等を充実させて頂きたい。また、帰国した隊員の就職についても民間企業にご協力頂きたい。

    4. 開発調査
      同事業は、途上国の社会、経済発展に役立つ公共的な事業の開発計画策定し、同時に技術移転を行うものである。97年度には269件の開発調査が実施され、その多くが経済開発型プロジェクトのマスタープラン作成、フィージビリティ・スタディであった。なお、昨年度実績では、円借款案件の28%がJICAの開発調査に基づいたものであり、今後とも開発調査と円借款の連携を強化できればと考えている。

    5. 開発協力事業
      同事業は、わが国民間企業が途上国で行なう試験的事業およびそれに伴い必要となる周辺インフラ整備のため投融資を行なうものである。本件は国際協力事業団法上、OECF、輸銀の貸付の対象とならない案件への投融資であるが、これまであまり民間企業からの需要がなかったのが実状である。
      ただし、実現した案件の中には極めて興味深いものが多い。例えば、87年に中国シンチャン省におけるホップ栽培の試験的事業に対して融資が行なわれたが、その後同事業はOECFの円借款案件として軌道に乗り、昨年、周辺インフラ整備のため、再び開発協力スキームにもとづく融資が行なわれている。

  7. 今後の展望
  8. 今後ともJICAは途上国の人材育成に力を入れていく所存である。例えば、アジア諸国の経済支援のため「新宮澤構想」にもとづく資金が供給されているが、このような資金が現地で有効に活用されるよう、現在、JICAではインドネシアの政策担当者に助言を行なう等のプログラムを実施している。


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