経団連くりっぷ No.106 (1999年7月22日)

第561回常任理事会/7月6日

証券市場の新たなステージに向けて


常任理事会では、東京証券取引所の山口光秀理事長から、「証券市場の新たなステージに向けて」と題して、東証の改革の方向等についてきいた。

  1. 日本版ビッグバンの本格的展開
  2. 昨年12月に金融システム改革法が施行され、市場の枠組みは大きく変わった。即ち取引所集中義務が撤廃され、取引所外での上場銘柄取引が可能になり、市場間競争も本格化してきた。さらに、本年4月に有価証券取引税・取引所税が撤廃され、10月には、委託手数料の完全自由化が控えており、日本版ビッグバンは大きなヤマ場を迎える。
    このような中、東証としては、昨年6月に、機関投資家向けに立会外取引システム(ToSTNeT)を導入した。さらに、さる4月末には、株券売買立会場を閉鎖した。一方、決済システムについても、一昨年12月に代金の即日資金化を実施したほか、資金と証券を同時に決済するDVPシステムの2001年前半の起ち上げに向け、準備を進めている。この他、昨年7月から、開示された情報をコンピュータ・ネットワークを通じて報道機関等に即時に伝達する一方、投資家がインターネットを通じてディスクロージャー資料を閲覧できる仕組み(TDnet)を導入した。さらに、証券取引等監視委員会など関係諸機関と連携するなど検査を充実するための改革を進めている。以上の結果、東証は、グローバルなレベルで見ても、効率性と信頼性の面で最も進んだ市場の一つになったと自負している。今後も市場改革のペースを落とすことなく、ビッグバン後の改革の方向を展望していかなければならない。

  3. 東証の改革の方向
    1. 本年2月、有識者から成る東証証券政策委員会より、ビッグバン後に東証の目指すべき方向について提言をいただいた。
      第1に、日本株のセントラル・マーケットとしての基盤強化である。取引所外の取引であっても、そこで利用される価格は取引所市場の価格である。したがって、公正で透明な価格の確保という観点から、価格発見機能を担う、核となる市場の存在が、ますます重要になってくる。そのような中で、東証は、セントラル・マーケットとして、豊富な流動性と、そこから生まれる公正かつ透明な価格提供という役割を確実に果たしていかなければならない。そのため、低コストの、使い勝手の良い市場の確立に向け努力していく。
      第2に、デリバティブマーケットの拡充である。デリバティブマーケットは、現物市場と車の両輪とも言うべき関係にあり、現物市場のさらなる活性化のためにも、その拡充が求められている。
      第3に、アジアのハブマーケットとしての機能の提供である。個々の市場が24時間取引を目指すようになった場合でも、米・欧・アジアの3地域で、それぞれ核となるべき市場が出現することになる。その中で、東証は、アジア地域の中心的な市場として機能しなければならない。

    2. 以上の他、具体的な課題として以下のような指摘をいただいた。
      まず、新興企業の上場促進に向けた対応である。新興企業の資金調達の円滑化については、これまで主として店頭市場がこれを担ってきたが、東証としても、取引所の持つ流通市場としてのインフラを最大限に利用し、新興企業の上場促進に向け、積極的な対応を行なっていく必要がある。近々、新興企業を対象とした新しい市場の創設について概要を示したい。
      1部、2部という銘柄区分の廃止にはシステム投資が必要であることから、2000年問題への対応もあって、当面は現行区分を維持するのが適当との意見をいただいたが、この問題も中長期的な観点から検討が必要であると考えている。
      さらに、現在会員制度をとっている組織形態の見直しについては、取引所の利用と運営の分離、株式会社化も選択肢の一つとして検討していきたい。

  4. 魅力ある投資対象の提供に向けて
    1. 以上の改革を実効あるものとし、日本版ビッグバンを成功に導くには、投資対象そのものの魅力を高めることも重要であり、その実現には、企業経営者の努力が不可欠である。ビッグバンによって投資先の選別が今まで以上に厳しくなることは必定であり、何よりもマーケットを意識した経営が求められることになる。
      第1に、株主重視の経営である。ROEを念頭に置いて、より一層効率的な資本の活用と収益力の向上を考えていただきたい。最近では、資本の効率性向上の観点から、自己株式の消却が活発に行なわれており、また、税制面においても、これを促進する環境が整えられている。こうした動きは、株主にとって望ましいものであるばかりか、株式持合いの解消手段の一つとしても期待できる。引き続き検討をお願いしたい。

    2. 第2に、コーポレート・ガバナンスの充実である。最近、コーポレート・ガバナンスに関する議論が活発であるが、まだ、企業によって関心の度合いに濃淡がある。東証としても、コーポレート・ガバナンスの充実や取組み状況等の開示を要請したところであるが、今後も、シンポジウムの開催等、コーポレート・ガバナンスの充実に積極的に関与するとともに、支援活動を展開していきたい。

    3. 第3に、ディスクロージャーの充実である。投資家の自己責任を前提とした市場メカニズムが貫徹する市場の確立にとって、適時・適切なディスクロージャーは最も重要な要素の一つである。そこで、本年9月を目途として、会社情報に関する適時開示について規則化する予定である。また、今後、国際会計基準の動向を踏まえ、金融商品の時価評価等、会計基準の見直しが数多く予定されており、こうした動きに対して、積極的に取り組んでいただきたい。

    4. 第4に、決算発表と株主総会の特定日への集中化の問題である。投資家に対する十分な情報開示の確保という意味でも、決算発表の早期化・分散化に協力いただきたい。また、株主総会日時の分散化は株主重視の姿勢の表われの一つとも言えるので、配慮いただきたい。


くりっぷ No.106 目次日本語のホームページ