経団連くりっぷ No.106 (1999年7月22日)

第120回関西会員懇談会/7月1日

産業競争力強化と経済活性化の方策に関して関西地区会員と懇談


「産業競争力の強化と経済の活性化のために」をテーマに標記懇談会を開催した。当日は今井会長、熊谷・古川・辻・岸・片田・森下の各副会長が出席し、関西地区の経団連会員の多数の参加のもと、意見交換が行なわれた。また、懇談会に先立ち、神戸東部新都心を訪問し、工場跡地の有効利用の状況を視察した。以下は、関西地区会員の発言要旨である。

  1. 田代 和氏/近畿日本鉄道会長
  2. 関西経済においては、景気の影響を被りやすい中小企業が多く、また、素材型産業の比重が高いことが特徴である。政府の緊急経済対策等の効果により景気の下げ止まりの兆しは見られるものの、今年の1〜3月期の近畿の完全失業率が5.4%を記録(全国平均は4.8%)するなど雇用情勢は厳しい。
    資金調達の多様化、税制の見直し等を通じた中小企業の活性化、また、ベンチャー企業や起業家の育成による新産業の創出等が望まれる。関西は伝統的に優れた企業家を多数輩出しており、大阪商工会議所では、企業家精神を若い世代に伝承し、その育成を目指す「大阪企業家ミュージアム」の開設を準備している。
    今後、大阪・関西が目指すべき姿は、2008年オリンピック招致をはじめとする国際集客および観光産業の振興である。また、東京一極集中の是正および地方分権に資する首都機能移転は極めて重要であり、その推進に取り組んでいる。

  3. 領木 新一郎氏/大阪ガス会長
  4. 関西経済の再生のためには、牽引車として製造業の再活性化が重要であり、製品の高付加価値化、コスト競争力向上をもたらす「技術の高度化・差別化」を徹底的に追求する必要がある。
    そのために、企業間や大学・研究機関等との連携による「技術のネットワーク」を構築し、各方面の力を幅広く結束していくことが、特に重要である。
    その観点から、大学や大学の研究者等が出資する技術移転機関(TLO)を設立する動きが関西でも相次いでいる。TLOに対する特許料の軽減措置や国有特許の移転円滑化等を進めることにより、産官学の技術移転を加速・推進していかねばならないと考える。

  5. 高野 泰明氏/三洋電機副会長
  6. 新会計基準の導入に当たって企業会計の国際標準化が求められる中、未だ明確化していない連結納税制度の導入が急務である。
    過剰な債務や設備を抱えた企業が今後自力再生を図るには、雇用のミスマッチの解消が不可欠である。企業内研修助成制度を国の事業として創設し、雇用面からも企業分割をはじめ新規事業育成を図るべきである。
    また、製造業者・小売業者・消費者の適切な役割分担のもと、家電製品のリサイクルを進めようとする特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)が2001年4月から施行される。同法の下、リサイクルを着実に進めるためには、全国の集積施設の確保や経費の負担率等、自治体および消費者を含む社会システムを構築する必要があり、関係者の積極的な支援を期待したい。

  7. 大庭 浩氏/川崎重工業会長
  8. 阪神・淡路大震災より4年半が経過し、神戸の交通、港湾、住宅等のインフラはほぼ復旧したとはいえ、兵庫県の有効求人倍率は全国ワースト3であり、震災の後遺症が色濃く残っている。神戸復興の新段階を迎え、先般発足した「関西広域連携協議会」を通じて、広く関西圏の連携を進め、神戸経済の着実な回復を図らなければならない。
    そこで、1997年3月、地元の自治体・企業が協力して、国内外の技術シーズと地域の保有技術とを融合させ、新産業の創造を目的とした新産業創造研究機構(NIRO)を設立し、地域活性化のための研究事業に取り組んでいる。一方、海洋関連分野は新産業としての発展が期待されており、海洋開発推進の意義についてもご理解頂きたい。

  9. 井上 博司氏/光洋精工社長
  10. 自動車、電気、工作機械等、基幹製造業の不振が続いており、中小企業は厳しい状況に置かれている。日本の自動車部品産業は優れた技術と品質を誇り、多様な品種の製造等において国際的に見ても比較優位を有するにもかかわらず、現在の長引く不況が、わが国基幹製造業の基盤を弱体化させるのではと憂慮している。
    わが国産業のコメである軸受は世界のトップシェアを保っているが、更なる発展のためには、

    1. 為替の安定、
    2. 金融の安定、
    3. 法制および税制面での問題解決(アンチダンピング税等)、
    が必要であり、政官財が連携して取り組む必要がある。

  11. 大林 剛郎氏/大林組副会長
  12. 世界的な都市間大競争時代を迎え、国際競争力を備えた魅力ある都市の形成は緊急の課題である。しかしながら、日本は、都市のニーズに対して整備が立ち遅れており、今後、少子・高齢化が進めば、投資余力が減退することは明らかである。そこで、投資効率の高い都市部に重点的整備を進める際には、省庁横断的な調整と首相の強いリーダーシップが不可欠であり、PFI手法等を積極的に活用すべきである。また、都市部の低・未利用地の有効活用については、土地流動化を促進するための税制改正や定期借家権の導入等が期待される。
    わが国重要課題であるベンチャー、新産業創出については、規制撤廃や証券市場の環境整備によって支援ネットワーク体制を構築する必要がある。

  13. 懇談/要旨
  14. 秋山喜久氏(関西電力会長)より「過剰設備廃棄による新しい産業構造への転換は、これから正念場を迎える。関経連でも委員会を設け、早急に関西再生シナリオを作ることにしているが、ただ単に産業ビジョンを作るのではなく、関西をアイデンティティと文化を備えた地域にすることが重要である」、森田桂氏(武田薬品工業相談役)より「21世紀は、遺伝子がテクノロジーを通じて産業に浸透していくバイオの時代になるであろう」との発言があった。


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