経団連くりっぷ No.106 (1999年7月22日)

WTOサービス自由化に関する懇談会/7月1日

次期WTOサービス貿易自由化交渉に向け
働きかけを強化する欧米サービス産業


慶応大学法学部の田村次朗教授ほかより、6月1、2日に米国ワシントンにて開催された「ワールド・サービス・コングレス(WSC)準備会合」(米国サービス産業連盟−CSI、ブルッキングス研究所ほか主催)における主な論点などについてきいた。

田村教授説明要旨

  1. 本年11月に、各国政府代表者、サービス産業関係者、学者等を集めアトランタで開催される予定の「WSC」に向けた、専門家による準備会合が6月にワシントンで開催された。主催者のCSIは、日本の事業者団体とは異なり、「サービス貿易自由化」という特定の目的に向けて組織されたロビー団体である。

  2. WSCに向け、サービス貿易自由化交渉に関する種々のペーパーが研究者によって準備されており、中間報告が行なわれた。特筆すべき主張は次のとおりである。

    1. 国内規制への介入:自由化促進のために競争法などの国内法・規制を修正する必要がある、
    2. 相互承認:各国の規制のハーモナイゼーションには困難が多く、相互に相手国のシステムを認め合う方法が現実的である、
    3. 交渉方式:リクエスト・アンド・オファー方式による二国間交渉を積み上げる方法には限界があり、一定のフォーミュラ(方程式)を使った交渉を採用すべきである。例えば、各国のサービス貿易の障壁を数値化して交渉に用いることは十分可能である。

  3. 競争政策に関し、米国は競争法の議論をWTOで行なうべきではないと述べつつも、基本電気通信サービスなどの分野において、相手国市場への参入が困難な場合には競争制限を理由にセーフガードを発動する、いわゆる「競争セーフガード」の概念を提起している。競争法における文言の定義は貿易法に比べ緻密である。競争法上の概念を安易に貿易法に持ち込み、貿易法の解釈の幅を狭めて良いのか、議論が必要である。
    さらに、サービス協定において「市場アクセス」というモノの貿易にはない概念があるが、競争法上の「市場参入」と異なり、緻密な定義がなされていない。こうした定義を曖昧なままにしておいて良いのか、日本として議論が必要である。

  4. 電子商取引については、電子商取引の法的安全性確保のための基盤整備が必要であると考えられる。そのための消費者保護、不正アクセスの禁止などの問題をWTOで扱うべきかは意見が分かれるところである。

  5. 今後、日本としては、

    1. 分野別の自由化交渉ではなく、横断的に問題を捉え主張していく、
    2. フォーミュラ方式を進めるうえでもサービス統計の整備に努める、
    3. サービス貿易赤字国として、サービス分野のセーフガードを提案し、有利な交渉を展開する、
    といったことを考えていく必要がある。


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