経団連くりっぷ No.107 (1999年8月12日)

米国内国歳入庁(IRS)前長官との懇談会(司会 中村常務理事)/7月8日

IRSの組織改革と最近の米国税制・移転価格税制の動向


経団連では、わが国税制の国際的イコールフッティングの実現を目指すとともに、移転価格税制をはじめとする国際租税の問題に取り組んでいる。その一環として、米国内国歳入庁(IRS)前長官でアーンスト・ヤング会計事務所のパートナーであるマーガレットM.リチャードソン氏からIRS組織改革と最近の米国税制の動向について、また、同事務所パートナーのマイケルF.パットン氏から最近の移転価格税制の動向について、講演をきくとともに、懇談した。

  1. リチャードソン氏説明要旨
    1. IRS組織改革法
    2. IRS組織改革法は、1998年7月22日から発効した。この法律には、IRSの組織機構と事務運営の見直しのみならず、電子納税、納税者の権利擁護、議会によるIRSの監視なども規定されている。新法に基づき、IRS長官は“アメリカの納税者に対して、彼らが自らの納税義務を理解するのを手助けし、また全ての者に対して税法を誠実かつ公正に適用することを通じて、最高のサービスを提供する”というミッションを負う。
      新組織では、従来の地方別・地域別組織形態が廃止され、

      1. 賃金労働者・投資所得者、
      2. 小規模事業及び自営業、
      3. 非課税及び政府関係団体、
      4. 大・中規模事業、
      という納税者の形態別部門が新設された。また、情報システムの改善やサービスの共有を通じて、IRS組織全体による広範なサービス向上を図っていきたい。今後、大企業に対する調査の拡充や、手続上の諸問題に関するガイダンス充実を行なっていきたいと考えている。

    3. 米国の税政策
    4. 過去20年間、米国では、最高税率の引下げ、税制の簡素化、課税ベースの拡大、歳入の中立性確保といった租税政策がとられてきた。GDPに占める連邦税収入の割合は比較的一定であるが、個人最高所得税率は70%から39.6%に、法人最高所得税率は48%から35%に引下げられている。
      米国の税制の特徴として、連邦レベルの消費税がないことと個人所得税と法人所得税間の調整がないことがあげられる。所得税の代わりに消費税を導入するという改革案は支持されておらず、今後5年間での大きな改革は考えられていない。
      最近、企業の競争力に対する税制の影響が焦点となっている。米国の税制は、外国税額控除等が複雑であり、また、二重課税排除が不十分であることから、米国の多国籍企業の競争力を低下させており、米国外に活動拠点を置くことを助長しているのではないかという懸念がある。
      米国では、税金を支払うことは企業責任ではあるが、各企業は税額を最小限にするために自由に取引構造を設定することができるとの認識を持っている。競争力のある多くの米国多国籍企業は、継続的な税務プランニングを通じて節税を行なっている。一方で税務当局は、税収入の機会を喪失しないように各種の対策を講じている。

  2. パットン氏説明要旨
    1. 税の展望
    2. 1998年の調査によれば、米国企業は税引後利益の約1.9倍の直接・間接税を支払っており、日系の多国籍企業は、米国企業よりも多額の納税をしていると考えられる。その理由として、日本の実効税率が高いことと、税支出の管理や税務対策にあまり重点が置かれていないことがあろう。
      移転価格とは、金銭の借入、物品の移転、サービスの提供、無形資産の開発、使用または移転のために、多国籍企業グループの一社が同じグループの別の会社に支払う金額である。国の所得税計算だけでなく、関税、付加価値税、地方所得税にも影響を及ぼす。
      当事務所のアンケートによれば、世界の多国籍企業の経営者は、移転価格税制に係る問題を国際税務上の最重要課題と位置づけている。同時に、税務当局にとっても、最大の関心事である。

    3. 連結実効税率の重要性
    4. これまで、日系多国籍企業に対する短期・長期資金の主たる供給源は銀行であり、融資の実行は、親会社単体の財務諸表を基に判断されていた。しかし、現在から将来にかけては、資金供給源としての株式市場の重要性が飛躍的に増加し、投資家の判断のための情報として、連結財務諸表が標準となる。内外の株式市場における外国人投資家に対する依存度も増加し、グローバルな規模で資金調達を可能にするには、グローバルなレベルでの経営指標を達成することが要求される。連結実効税率は、その経営指標の一つの尺度としてみなされよう。この点からも、日系多国籍企業は、国際的な二重課税を回避する努力が必要である。

    5. 資金源としての税務戦略
    6. 税務プランニングによって捻出された資金は無利子の資金源である。多くの多国籍企業では、グループ内金融や持株会社などを利用してグローバルな税務戦略を実行している。
      また、企業が経済的付加価値(EVA)の向上のためにも、限りある資金を関連会社や多国間で有効に配分する必要があり、この面からも、移転価格問題は経営戦略上の重要課題となる。
      米国から見た日本の移転価格税制は不確実であり、今後、OECDガイドラインの明確な採用などに向けた検討が必要である。

  3. 質疑応答(要旨)
  4. 経団連側:
    日本の現行制度では、欠損金の繰越しは5年であり、税の時効も繰越期間に合わせて5年となっている。アメリカでは、欠損金の繰越しは20年まで認められており、税務調査にはいつでも入れるという話を聞くが、税の時効についてはどうなっているのか。

    リチャードソン氏:
    アメリカでは、税の時効は、IRSに申告された時から起算して3年という期限が設定されている。しかし、大企業の場合には、IRSから企業に要請をして合意された場合には、税務調査の期限を延長することができる。

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