経団連くりっぷ No.107 (1999年8月12日)

貿易投資委員会 貿易部会(部会長 團野廣一氏)/7月13日

WTOでの多国間投資ルール策定交渉は日本のリードで

−発展途上国、シビル・ソサエティの理解が重要


経団連は、来年から開始される次期WTO交渉において「多国間投資ルールの策定」を議題の一つとしてとりあげるよう提言している。貿易部会では、東京大学教養学部の小寺彰教授より、国際的な投資ルールの整備に向けたこれまでの動きや、WTOで投資ルールを検討する際の論点などについてきいた。

小寺教授説明要旨

  1. 投資ルール整備に向けた動向
    1. 1948年のGATT発効以来、多国間の規律の対象は、モノの貿易からサービス貿易や投資へと広がってきた。
      95年からOECDにおいて多国間投資協定(MAI)策定のための交渉が始まった。MAIは投資に関する内外無差別を原則とするなど水準の高い協定であり、企業が国家を直接訴える紛争処理メカニズムも想定していた。

    2. しかし、97年春頃から、交渉過程が不透明である、環境保護や労働基準に悪影響を及ぼすといった認識に基づき、NGOなどのいわゆる「シビル・ソサエティ(市民社会)」がMAIに対する反発を強めた。さらにフランス政府は「MAIは国家の主権を危機にさらす」と批判し、結局、交渉は98年秋に挫折した。

  2. WTOの投資ルールの可能性
    1. MAIが失敗したことから、日本政府はWTOにおける投資ルール策定に強い期待を抱いている。日本企業は途上国の投資環境の改善に関心を持っており、先進国を中心とするMAIよりWTOにおける投資ルールの方が利益に適う。日本はWTOでの投資ルール策定の作業をリードすべきである。

    2. 本年2月、産業構造審議会WTO部会「貿易と投資」小委員会は、国際的な投資ルールづくりの方向性についての中間報告書を発表した。同報告書では、貿易・投資の漸進的自由化を基本理念として位置付けつつ、内国民待遇・最恵国待遇、投資保護、紛争処理などから成る多国間投資ルールの骨格を示している。MAIの影響が強く出ているものの、

      1. 企業対国家の紛争処理は盛り込まない、
      2. 開発途上国支援の重視、
      3. 投資の定義を直接投資に限定、
      などの相違点がある。

    3. WTOの投資ルールは、投資の保護と円滑化を確保し、世界の投資環境の底上げを目指すものとすべきである。また、シビル・ソサエティや途上国に対してMAIとの相違を明確に説明し、理解を得ることが重要である。

    4. 現在、世界中に約1,300の二国間投資協定があるが、日本は8カ国との間にしか締結していない。また、自由貿易協定も未締結である。マルチ交渉での立場を強化するためにも、二国間協定を積極的に取り込み、複合的な戦略をとることが重要である。


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