経団連くりっぷ No.107 (1999年8月12日)

経済政策委員会 企画部会(部会長 小井戸雅彦氏)/7月16日

労働力人口減少の経済社会に及ぼす影響と課題


経済政策委員会企画部会では、わが国経済の再生のために必要な構造改革の1つとして、今年度は「労働力人口の減少の影響と対応策」について検討を行ない、来春を目処に提言案を取りまとめる。
そこで上智大学国際関係研究所の八代尚宏教授から、労働力人口減少の経済社会に及ぼす影響と課題につき、説明をきくとともに、意見交換した。

八代教授説明要旨

  1. 労働力人口減少の背景
  2. 労働力人口は、21世紀初頭から減少に転ずるが、この背景には、他先進国に比べて急速かつ先行き不透明な少子化の進展がある。1998年度の全国平均の合計特殊出生率は1.38人であるが、女性の雇用就業率の高まりに伴い、現在の東京都の1.05人の水準に向けていっそう落ち込む可能性がある。

  3. エイジ・フリーの社会
  4. 労働力人口減少をスローダウンさせる施策として、女性の就業率向上の効果は子育て期年齢人口の減少から限られており、高齢者の就業率向上を図るべきである。このため、年齢にとらわれない徹底した能力主義に基づいたエイジ・フリーの制度・労働慣行の確立を図るべきである。

  5. 社会的技術進歩の必要性
  6. 資本蓄積による労働力の代替効果は一時的なものにとどまる。中長期的には低成長経済の下における労働力減少に伴う資本収益率低下と、高齢化に伴う貯蓄率の低下により、投資意欲が減退し、労働生産性が低下する。これを相殺するため、資本と労働力の産業間流動性を高め、より効率的な利用を推進することで「社会的技術進歩」の向上を図る必要がある。

  7. 労働市場流動化に向けた規制改革
  8. 「社会的技術進歩」のためには、特にホワイトカラーを中心とした労働の流動化に向けた規制改革が不可欠である。労働市場関係の規制改革は一段落したとの見方は適切ではない。有料職業紹介事業、派遣労働事業の規制緩和の程度は限定的なものである。さらに規制緩和を進めるとともに、有期雇用契約の一層の弾力化を図っていく必要がある。
    同時に、先進国の中でも最も厳しい解雇規制の改革も必要である。労働基準法で認められている30日前の予告に基づく解雇権は、判例により事実上空文化されている。能力主義の徹底を図るには、解雇手続きに係る法制を整備すべきである。このことは、中途採用や新規採用の拡大につながり、結果的には労使双方にメリットをもたらす。


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