経団連くりっぷ No.107 (1999年8月12日)

金融制度委員会 企画部会(部会長 奈良久彌氏)/7月26日

問題金融機関の破綻処理の早期完了と破綻処理メニューの拡充を

−池尾和人慶應義塾大学教授にきく


2001年のペイオフ解禁を控え、セーフティネットのあり方につき関心が高まっている。そこで、金融制度委員会企画部会では、政府の金融審議会第二部会委員としてこの問題の検討にあたっている池尾和人慶應義塾大学経済学部教授を招き、金融システムの直面する課題とセーフティネットのあり方等について説明をきくとともに意見交換した。

  1. 池尾教授説明要旨
    1. 金融システムの直面する問題
    2. 国家管理の拡大により、金融システムは小康を得ている。しかし、国家管理には弊害が多く、市場原理の速やかな回復を図る必要がある。この他、金融システムをめぐっては、信用膨張解消の目途が立っていない、自律的な革新の弾みを欠いている等の問題がある。

    3. セーフティネットの整備と市場規律の回復
    4. ペイオフは、狭義には、直接預金払い戻しを指すが、広義には、付保限度までしか銀行預金を保護しないことを指す。2001年4月から実施しようとしているのは広義のペイオフである。狭義のペイオフは、実行可能にはすべきだが、非効率であり、基本的に取るべき方式ではない。
      今なすべきことは、第1に、2001年3月までの間に問題金融機関の破綻処理を完了することである。第2に、2001年3月までの時限措置となっている破綻処理方式の見直しと恒久化が必要である。狭義のペイオフ以外にも破綻処理メニューを拡充することが望ましい。例えば、特別公的管理には問題が多いとしても、ブリッジバンク制度は残すべきである。
      金融産業が健全化するまでの間は、預金保険制度の拡充・強化も必要となろうが、その後は「小さな、しかし強力な預金保険制度」を目指すべきである。2001年3月末までに健全化が完了しない場合は、過渡的措置も必要となろう。
      2000年通常国会に法案を提出する必要がある。金融審議会も9月には方向性を打ち出すべく、今後集中的に議論を進めることになろう。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 当会出席者から「保険金支払限度額1,000万を引上げるべきではないか」「システミック・リスクに伴う例外措置を規定すべきではないか」等の意見が出された。これに対し、池尾教授からは「保険金支払限度額の一律引上げの必要はないが、退職金、年金積立金などを別枠で保護することは検討に値する。また、決済性預金の全額保護が言われているが、これは米国のスウィープ・アカウント等を参考に、民間が商品開発で対処すべき問題である」「システミック・リスクに伴う例外措置については、発動手順のみを厳格に定める(内容はいわゆる建設的な曖昧にとどめる)方が適当ではないか」との回答があった。


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