経団連くりっぷ No.108 (1999年9月9日)

なびげーたー

求められる雇用・労働分野の改革

常務理事 立花 宏


産業競争力強化の観点から、資本・設備・技術面の改革が進みつつある。残された課題の一つが、経済構造改革の効果を高める雇用・労働分野の改革である。

本格的な少子・高齢化の入り口で長引く景気低迷に呻吟しているわが国経済は、世界的な大競争にも直面し、産業競争力の強化が喫緊の課題となっている。

これに適切に対処していくためには、各経済主体が、労働、資本、技術などの経営資源を有効に活用する必要がある。なかでも雇用・労働分野の改革を通じた人材の適材適所の実現は、重要課題の一つであろう。それは、労働者の持つ潜在能力を顕在化することが、創造的な技術革新による生産性の上昇や国民の稼得力の向上を促し、高齢化社会への対応力を向上させることにつながるからである。

しかし、他分野に比べ、雇用・労働分野の改革は遅れているのが実情である。例えば、次のような問題点がある。

  1. 産業構造の高度化の観点から、無用な混乱・摩擦を避けつつ労働移動を円滑に進めていく必要があるが、日本の雇用・労働システムは、雇用のミスマッチや労働移動への対応が十分でない。
  2. 少子・高齢化の進展に伴い労働部門は、量・質両面から経済成長の制約要因になることが懸念されるが、活用が求められる高年齢層や女性といった人々の労働参加を制約する法制度・慣行が存在する。

こうした現状をみると、わが国が雇用・労働分野において取り組むべき課題は、

  1. 職業紹介システムの整備等、労働市場の機能強化、
  2. 個人の職業能力の向上、
  3. 高年齢層・女性などの人材の活用、
の3点に集約される。

政府もこうした課題についての取組みを強化しており、最近2年間で、労働基準法、職業安定法、労働者派遣法といった日本の雇用・労働を規定する主な法律が改正された。

しかし、問題は、審議会の議論を経て立案される政策が、労働者や企業の多様なニーズを十分に反映しているとは言い難いという点である。例えば、改正労働者派遣法では、派遣労働として就業可能な業務を拡大する一方で、常用雇用との代替防止という観点から、派遣期間は1年に短縮された(従来からの対象業務については3年)。しかし、派遣労働の拡大が常用雇用との代替を進めるという前提は、果たして妥当といえるのだろうか。派遣労働者の中には、派遣のまま同じ職場で継続的に就業することを希望する者も多数存在する。

日本で政策を変更するとなると、対立する利害関係者の意見を「足して2で割る」ような決定がなされがちである。その傾向は、特に雇用・労働政策において顕著である。英米では、公的支出や法制の影響・効果が厳しく点検される。労働者や企業の多様なニーズに応えるかたちで、時代の要請にあった効果的な政策が立案される仕組みを早急に構築する必要がある。


くりっぷ No.108 目次日本語のホームページ