経団連くりっぷ No.109 (1999年9月22日)

マレーシア経済に関する講演会(座長 熊谷直彦氏)/8月30日

V字型の回復を遂げたマレーシア経済


経団連では、東南アジア5ヵ国における国際文化交流プロジェクトの1つとして、1991年以来、マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)日本研究センターに対する資金面での支援を行なってきた。今般、1999年から2002年までの4年間にわたる同センター支援の枠組みが正式に決まったことを受けて、ISISのノルディン・ソピー会長とステファン・リヨン日本研究センター所長が支援企業へのお礼のために来日した。そこでこの機会に、ソピー会長からマレーシア経済に関する講演をいただくとともに、日本研究センター支援に関する合意書への署名式を挙行した。

  1. ノルディン・ソピー氏講演要旨
    1. マレーシア経済はこの2年間、非常に苦しい時期を経験してきた。この間、日本が手を差し伸べてくれたことに対して、マレーシア国民は大変感謝している。まさに、「苦しい時の友は真の友」であることを実感した。現在、マレーシア経済は一応、回復基調にあるが、いつまた落ち込んでもおかしくはない。完全な回復に至るにはまだ時間がかかる。

    2. 危機が起こった97年、マレーシア経済はどちらかというと好調であった。そのためわれわれは当初、ここまで経済が落ち込むとは思わなかった。私ですら、マイナス1%成長と甘い見通しを立てていた。その後、通貨危機が深刻化したことから、98年8月8日、マレーシア政府は為替管理措置の実施を決定し、9月1日から固定相場制を実施した。しかし、それでもマイナス成長に歯止めはかからなかった。

    3. GDP成長率は、98年第3四半期がマイナス10.9%、第4四半期がマイナス10.3%、99年第1四半期がマイナス1.3%であった。ただ、99年第1四半期において、1月はマイナス7%だったが、2月と3月はプラス成長に転じた。続く99年第2四半期も4.1%のプラス成長となり、とりあえずマレーシア経済は、不況を脱してV字型の回復を遂げることができたといえよう。

    4. このように景気が急速に回復したのは、為替管理を断行し、それにより利下げを行なうことができたからである。さらに、輸出が堅調に伸びていること、経常収支が98年第1四半期以降、黒字に転じていることも、経済回復に貢献した。外貨準備高は現在317億米ドルで、昨年8月末の115億ドルから約6割も積み増した。

    5. 銀行が抱える不良債権額も、最近は安定もしくは微減している。これは精度が高いデータであり、信用できる。もともとマレーシアの金融セクターは、危機以前に体力を強化していたため、多少打撃は受けたものの立ち直りが早かった。本年2月からは、貸付けの承認額および実績額とも増加している。

    6. その他、製造業の生産指数や売上高、電力需要、新車販売台数などが上向きに転じており、消費者物価指数や生産者物価指数、失業者数、清算会社数などは下落傾向にある。こうした動きを受けて、研究機関等によるマレーシア経済の見通しも上方修正されており、最近では99年の成長率を6.5%と予測している機関もある。マハティール首相は、経済回復を楽観視する向きに対して警鐘を鳴らしているが、今後も改善すべき点は改善して、回復を本格的なものにする必要がある。

    7. 他のアジア各国・地域の経済についても、最近ではインドネシアも含めておおかたV字型の回復を遂げるとの見通しが示されている。アジア経済は急速に回復しつつあるが、他方でそれが日本経済の回復に負うところが大きいことも事実である。

    8. 総選挙については、2000年5月までに実施する必要があるが、マハティール首相は野党の組織化が進む前に選挙を行ないたいのではないか。私は早くて11月に実施されると見ている。

    9. マレーシアが行なった資本規制は限定的なものであり、海外直接投資に対しては何ら規制しなかった。また、本年9月1日以降は、凍結していた株式の売買利益の引出しが可能となる。通貨・金融危機に対するマレーシアの対応や経験は、他の国のモデルとはなり得ないし、モデルになりたいとも思わない。米国などからすればマレーシアがとった措置は異端であって、マレーシア1国だけが実施している分には捨て置かれるが、他の国が追随すれば必ず制裁を受けるだろう。

    10. 今回の危機から学ぶべきことはまだある。危機に対する協力・協調の枠組みは必要であり、日本が指導的役割を担ってくれることを期待する。

  2. マレーシア戦略国際問題研究所日本研究センター(注)支援に関する合意書署名式
  3. 講演会終了後、ソピー会長と日枝国際協力委員会共同委員長との間で、マレーシア戦略国際問題研究所日本研究センターに対する支援に関する合意書への署名式が行なわれた。これにより、本年から2002年までの4年間、経団連は29社の参加を得て毎年960万円、4年間の総額3,840万円を、同センターに対し寄付することとなった。式には支援企業(29社)の代表も出席し、日枝共同委員長の挨拶に続いてソピー会長から感謝の言葉があり、その後署名を行なった。


    合意書に署名する日枝 国際協力共同委員長(右)と
    ソピーISIS会長(左)

    (注)1991年1月、日本研究を通じてマレーシアひいては東南アジアにおける日本理解の促進を図るために、マレーシア戦略国際問題研究所内に設立された。日本に関する講演会の開催や、情報提供などを行なっている。

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