経団連くりっぷ No.112 (1999年11月11日)

なびげーたー

大改革中の隣国ロシア

−第4回日ロ経済合同会議の感想

常務理事 藤原勝博


13世紀からの蒙古支配、ツァーの専制、革命後のソ連時代を経て、ロシアは今、民主主義、法治主義、市場経済を取り入れようと苦労している。スタートしてわずか8年目。われわれの視点も変えよう。

「顧客は神様ですから」というセリフが工場視察の案内をした副社長の口から出た時、日本側から、思わず感嘆の声が上がった。欧州に近いノブゴロドという小さな州で、フィンランドとの合弁で10年前にできた合板工場を見学した時のことである。高級合板に特化し、輸出比率90%で、欧州各国が顧客だという。納期を守るために、サンクトの港を使わず、フィンランドの港から船積みする、モスクワの中央政府よりも地元州政府の施策が大事、納税もキチンとしている、という。話をしていると、もう欧米の普通のビジネスマンと同じで、違和感がない。

極東やモスクワの政治家、経済官僚と話し合うことが多い私にとっては、全くロシアは多様性に富む大きい国だということを実感した。日本と近い極東にこんな優良合弁事業があれば、日本企業の対ロシア観も大いに変わるのになあという思いもあり、それを口にすると、その女性副社長は初めて笑顔を見せ、自分は沿海州出身なのでそんな話が実現すれば自分も嬉しいと答えた。

ノブゴロド州でのもう一つの視察は、飲物や食品を容器に入れる機械の工場であった。以下は企業長の説明。

以前は従業員450人のロボット製造工場であったが、軍需は激減し、自由化で競合品の輸入が急増、全く競争できず、一時は途方にくれた。4年前、工場の生き残りをかけ、食品機械に焦点を絞り、独自技術でなんとか欧州製品についていける水準に達した。事業転換資金は高金利で借りることもできず、試作品を見せ、前払い金をもらってスタートした。今は従業員300人。今日、独企業の技師が来ており、輸出のための安全基準について交渉している。

見学からもどるバスの中で、戦後日本経済の立ち上りの頃、大軍需工場がナベ、カマをつくり、ホンダ、ソニーの町工場が動き始めた頃はこんな状況だったのかと感慨を深くした。

以上、この10月、2年振りにロシアで開催した第4回日本ロシア経済合同会議に参加した私の感想の一部である。今回の会議は、欧米企業との経験交流など若干の新しい要素が加わり、興味深いものがあった。

チェチェン内戦、選挙をめぐる政争、IMF融資、旧ソ連債務の交渉など、日本にいてロシアに関するニュースを追う限りでは、明るい話題は少ない。しかし、1億5,000万人のロシア人はあの寒い気候の下で毎日生活をしている。経済の失敗で餓死したなどというニュースはない。サンクトペテルブルグで見たバレエ「眠れる森の美女」は、地元の二人連れ、家族連れで文字通り満杯であった。


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