経団連くりっぷ No.112 (1999年11月11日)

評議員懇談会(座長 那須 翔 評議員会議長)/10月15日

税制・社会保障制度の改革ならびに産業競争力の強化について懇談


評議員約80名の出席を得て、評議員懇談会を開催した。当日は、那須評議員会議長、今井会長から挨拶があった後、第1分科会「税制・社会保障制度の改革」(座長:福原評議員会副議長)、第2分科会「産業競争力の強化−雇用・労働・教育分野を中心に」(座長:橋本評議員会副議長)に分かれて懇談した。

  1. 全体会議
    1. 那須議長挨拶
      1. 景気を民需主導の自律的な回復軌道に乗せるには、もう一段の政策の下支えが必要である。第二次補正予算等を質量ともに充実したものにする必要がある。

      2. 企業が構造改革を円滑に進めるには、税制、法制面の抜本改革が不可欠であり、産業の競争力強化に向けて、改革を継続しなければならない。

      3. 企業や勤労世代にとって大きな負担となっている社会保障制度の改革も避けて通れない。あるべき姿を念頭に置き、筋の通った改革を行なうべきである。

      4. この正念場を乗り切って経済再生、経済新生を遂げるには、景気の自律回復に向けた施策と構造改革のための施策を、同時並行でバランス良く展開する必要がある。

    2. 今井会長挨拶
      1. 景気は緩やかながら回復に向かっているが、民間設備投資は容易に回復しないと考えられ、予断を許さない。円高が輸出に与える影響や国債増発が長期金利の上昇を通じて経済に与える影響も依然懸念される。

      2. 経団連の新内閣への要望のポイントの第1は、切れ目のない経済対策の実行である。補正予算を12月上旬までには成立させ、来年1〜3月に間に合うよう早期に執行する必要がある。また、事業承継税制やエンジェル税制の拡充・強化といった歳入面からのてこ入れも必要である。さらに、雇用・労働分野の改革が不可欠である。

      3. 第2は、税制・法制の抜本改革である。景気回復が確実になった段階からは、サプライサイドから経済を活性化し、民主導の経済成長を実現しなくてはならない。そのためには、税制・法制が、経営の革新や経営形態の多様化を阻害しないようにしなければならない。とりわけ、会社分割法制の整備、企業の組織変更に伴う譲渡益非課税・登録免許税の減免等の措置、連結納税制度の2001年度の導入、が不可欠である。

      4. 第3は、社会保障制度の再構築である。持続可能な制度に再構築し、国民負担率の上昇をできる限り抑制していく必要がある。三党連立政権合意を着実に実行するとともに、合意にはない企業年金や医療制度の改革も進める必要がある。早期改革に向け、改革ムードを盛りあげていきたい。

      5. 第4は、金融システムの強化である。ペイオフ凍結解除は予定通り実施すべきであるが、準備もなく実施しては金融不安が再燃しかねない。国民のニーズに的確に対応し、健全な資産形成と経済社会の活性化を図るためにも、凍結解除に備えた、国民負担最小化のための新しいセーフティネット整備や金融サービス法制定等が必要である。

      6. 資源のないわが国が経済成長を遂げていくには、資本と労働の生産性を高めていかなければならない。そのためには産学官が協力して産業の技術力を抜本的に強化していく必要がある。その一環として情報化、高齢化、環境の3分野について「ミレニアム・プロジェクト」をつくりあげていくこととしており、現在、官民が協力して具体的プロジェクトの選定作業を進めている。戦略的な産業技術政策の推進には、産学官による産業技術戦略の早期構築に加えて人材育成と教育改革も重要である。

      7. 以上を官民が協力、補完し合いながら同時並行的に進めなければ、景気の本格回復も日本経済の再生もない。

  2. 分科会
    1. 第1分科会
      1. 宮部税制共同委員長説明要旨

        1. 中長期課題として、直間比率の是正、
        2. 来年度税制改正の課題として、法人課税の改革(連結納税制度の早期導入等)、固定資産税の負担軽減、中小企業の事業承継の円滑化の観点からの相続税の見直し、
        等について説明。

      2. 福原社会保障制度共同委員長説明要旨

        1. 社会保障制度改革の方向(制度の目的に照らした財源方式等)、
        2. 社会保障制度委員会の取組み(厚生年金基金の代行部分返上のための基本的ルール作り、確定拠出型年金の具体案取りまとめへの対応、医療改革に関する検討状況)、
        等について説明。

      3. 懇談要旨

        1. 納税者番号制度は、全ての金融取引に平等に導入し中立性を確保すべきである、
        2. 連結納税制度は、有限責任事業組合の導入など諸制度間の有機的連関も念頭において導入を働きかけるべきである、
        3. 企業の国際競争力の観点から、固定資産税の抜本的な見直しが必要である、
        4. 住環境改善の観点から、住宅ローンは所得控除とすべきである、
        5. 確定拠出型年金制度を早期に導入するとともに、確定給付型年金の柔軟な制度設計を可能とし、ハイブリッドプランをはじめ多様な選択肢を確保すべきである、
        6. 医療制度と介護制度を整合的に整備すべきである、
        7. 医療機関間のみならず保険者間の競争も機能させる必要がある、
        等の意見が出された。

    2. 第2分科会
      1. 立花常務理事説明要旨

        1. 産業競争力会議の活動と経団連の取組み、
        2. 雇用・労働分野の改革に関する基本的考え方と具体策、
        3. 教育分野の改革に関する経団連の取組み(人材育成、産業技術、情報通信各委員会の活動)、
        について説明。

      2. 懇談要旨

        1. 教育訓練を充実し雇用の流動性を高める必要がある、
        2. シルバー人材の雇用機会を創出する必要がある、
        3. 産業界に必要な人材像を提示していく必要がある、
        4. 産学の意見交換を密にし雇用のミスマッチを防ぐ必要がある、
        5. 企業が適切な処遇を行なうことが重要である、
        6. 労使慣行の見直しが必要である、
        7. 大学間、研究者間の競争が研究環境の改善につながる、
        8. 民間人が大学教育に従来以上に参画すべきである、
        9. 小中高等学校教育に焦点を当てた対策が必要である、
        10. 出生率向上には、公営託児所の整備等が必要である、
        等の意見が出された。


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