経団連くりっぷ No.112 (1999年11月11日)

日本イラン経済委員会(委員長 相川賢太郎氏)/10月25日

第3次経済開発5ヵ年計画への協力に期待を寄せるイラン

−モッタキ駐日大使との懇談会


昨今の原油価格の高騰は、石油・ガス輸出が総輸出の8割を占めるイラン経済を急速に好転させつつある。一方、日本イラン経済関係は、依然として低水準にある。このような中で、今般、モッタキ駐日大使が4年半の任期を終え帰国する。日本イラン経済委員会では、帰国前の同大使を招き最近のイランの政治経済情勢と対日関係の展望について話をきいた。

モッタキ大使発言要旨

  1. 対日経済関係
  2. イラン・イスラム共和国にとって、対日関係は重要であり、その中で経団連の日本イラン経済委員会の存在は特別の意義を持っている。今後とも両国経済関係強化のための活動に取り組んでいただきたい。
    現在、両国間経済関係の大半は、日量60万バレルにのぼるイランの対日石油輸出に占められている。日本はイランにとって最大の顧客である。1998年の対日貿易額は32億ドルと大幅に減少したが、原因は原油価格の大幅な下落である。現在、原油価格は安定しており、本年および来年以降の貿易は大幅に改善しよう。
    滞日4年半の印象として、相互理解の不足を痛感している。幸いにも、昨年の経団連ミッション派遣、高村外相の訪イ、ハラジ外相の訪日等を通じて両国間の政治・経済面での交流は活発化しつつある。来年の予定として、ハタミ大統領の訪日を検討している。今後は政治・経済面だけでなく、文化・学術においての交流も進めていきたいので、日本企業による研修生の派遣などを再開してもらいたい。

  3. 第3次経済開発5ヵ年計画概要
  4. 先般、来年3月から実施予定の第3次経済開発5ヵ年計画の原案が、ハタミ内閣により国会に提出された。今次5ヵ年計画の最大の目的は、石油依存からの脱却と、国内産業の活性化のための国営企業の民営化である。具体的には、鉄道、港湾、情報通信、タバコ、砂糖、紅茶の製造販売が民営化される。石油・ガス関連でも、一部の関連製品の製造販売と、サービス部門は民営化との対象となる。
    産業振興の対象としては、鉄道、情報通信、石油化学、軽工業等が指摘されているが、鉄鋼・鉱山案件は、他産業発展の基礎になるので特に重視されている。鉄道について付言すれば、イランは中央アジアへの物流ルートの最有力候補であり、ペルシャ湾のバンダルアバス港からトルクメニスタン国境に近いマシュハドまでの区間で、現在短絡路を建設している。これが完成すれば、現在のルートから900km短縮でき、輸送効率は大幅に向上する。
    また発電プラント建設プロジェクトにも、高い優先度が与えられている。さらにイランの建設業は、先進国の水準にはないが、途上国では十分な競争力をもっており、最近では国際的なコンソーシアムに参加している。
    政府としては、今次計画の推進を通じて、平均6%の経済成長と投資の伸び率7%の達成を目指している。ちなみに第2次5ヵ年計画では、平均経済成長率3.2%、投資の伸び率1.8%であった。
    これらの事業を賄うための資金総額は、1,124億ドルにのぼる。そのうち641億ドルは原油と石油製品の輸出により、347億ドルは非石油製品の輸出により、67億ドルはサービス貿易により賄われる。残りの68億ドルについては、投資収益の移転を含め、海外から調達する予定である。イラン政府としては、民営化の推進と投資規制の見直しを通じて産業界に競争原理を導入するとともに、外国投資の誘致に務めていく。

  5. 新たな協力の可能性
  6. 最近、南西クーゼスタン州において、推定埋蔵量260億バレル、日産40万バレルの新たな石油鉱脈が発見された。探査を通じて、イランの石油・ガス資源がさらに有望であることも確認された。日本企業には、イラン国営石油・ガス公社とともに、これらの開発に取り組んでもらいたい。
    また中央アジア諸国との関係において、現在、中央アジアの石油・ガスの輸出ルートの検討が進んでいるが、イランの地政学的な重要性は明白であり、経済的にはイラン経由が最も有利である。政治的な要因によってルートが決められようとしているが、政治要因は時間とともに変化していく。長期的、経済的要因からみれば、やはりイラン経由の輸出ルートが最も効率よいルートである。

  7. 今後の外交課題
  8. ハタミ大統領は、文明間の対話を呼びかけており、日欧諸国は、これに応じて積極的に対応している。日欧は、従来からイランとの対話を実施しているが、欧州では「批判的な対話」から「建設的な対話」へと変わった。このような動きを通じて、ハタミ大統領のイタリア訪問が実現した。現在大統領はフランス訪問を控えている。欧州からも、イタリアとオーストリアの首相がイランを訪問しており、政治的な関係は正常化している。貿易保険を再開した国も多い。
    米国との外交関係は、1979年の革命以来断絶している。ハタミ大統領は、このような状況を打開すべくCNNのインタビューに応じ、まずは学術交流等から再開するよう働きかけている。今や米国人のイラン訪問に制限はない。アフガニスタンにおける麻薬やテロの問題に対して米国とイランが協力していく可能性はあり、結果として両国間の関係が深化していくことも考えられる。
    イランとしては、米国企業とビジネスをすることに抵抗はない。実現するのは時間の問題である。欧米企業は歴史的にイラン市場を熟知しており、彼らが市場を席巻すると、日本をはじめとする後発国の参入は難しくなろう。


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