経団連くりっぷ No.113 (1999年11月25日)

経済政策委員会 企画部会(部会長 小井戸雅彦氏)/10月28日

情報化により雇用が拡大

−米国労働市場の変化


経済政策委員会 企画部会では、21世紀初頭に予測される労働力人口の減少の下で、経済社会の活力を維持していく方策について検討を進めている。この一環として、三和総合研究所の芥田知至研究員から、米国の労働市場の変化につき、説明をきくとともに懇談した。

  1. 芥田研究員説明要旨
    1. 米国労働市場の実態
    2. 1990年代の米国労働市場は日本の対極にあるとの誤解が多い。しかし、実質賃金は、ボーナス、医療補助などを含めた時間当たり労働報酬で見ると伸びている。ホワイトカラーは、経営・管理、専門、技術の3職種を中心に増加している。所得格差は、1995年に一時縮小した。高等教育への進学率向上を背景に、格差拡大に歯止めがかかる兆しと捉えている。45〜54歳賃金と、25〜29歳賃金の格差が拡大傾向にある一方、平均在職期間は女性を中心に長期化傾向にあり、賃金の年功化、雇用の長期化が進んでいる。
      また、失業率低下の背景には、福祉水準の切り下げ、最低賃金引上げの見送り、失業保険制度の全国的な導入、全国ネットの人材派遣業の隆盛も寄与している。

    3. 情報化と雇用
    4. 情報化投資は1990年代前半は雇用の削減に寄与したが、1990年代後半は情報機器の価格低下に伴い新市場が拡大し、雇用創出をもたらした。1991年から1998年にかけて、一般設備との代替効果で約80万人の雇用が削減されたが、情報化の進展の効果により約600万人、経済規模拡大の効果により約800万人の雇用が創出されたと推計している。システム関連の専門家(コンピュータ関係)、システム運営に携わるマネジメント職(経営トップ、企画・広報)、新事業に係るセールス(店長・事業主)における雇用増が顕著であった。

    5. 日本への示唆
    6. 経済の再浮上と雇用の受け皿つくりに向けて、米国に立ちおくれた情報化投資の推進が重要である。また、経済全体が好調であれば、長期雇用や年功賃金システムにも優れた点がある。雇用システムの改革を進めつつも、マクロ経済の安定運営を最重要課題とすべきである。

  2. 懇談要旨
  3. 当会側出席者からは、「米国の実質賃金は1990年代前半は伸び悩んでおり、労働分配率も低下している」、「所得格差については1995年の縮小が異常値であり、学歴による格差も考えると、趨勢としては拡大していると見た方が妥当ではないか」、「能力に応じた結果としての所得格差は問題ではない。機会の平等の確保がより重要である」、「情報化投資と雇用の関係は、経済成長時とゼロ成長の時とで分けて考える必要がある」等の意見が出た。


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