経団連くりっぷ No.114 (1999年12月9日)

なびげーたー

宇宙利用の拡大に向け、今こそ地固めを

産業本部長 永松恵一


国の先端技術開発を担う産業の一つとして、宇宙に対する期待は大きい。リスクの高い研究開発であるからこそ、国家としての戦略的な取組みが必要だ。

地球の重力に逆らい、地上から3万6,000kmも離れた宇宙空間へ重量数トンにもなる衛星をロケットで打ち上げ、一定の軌道に載せる。あるいは、打ち上げた衛星を、無重力でしかも強力な太陽放射線を浴びる過酷な宇宙環境で長期にわたって維持し、ミッションを遂行する。このような宇宙開発に伴う技術要求は非常に厳しい。

現在、宇宙開発でトップを走る米国、ロシア、フランス等でも、開発段階においては数多くの失敗を繰り返し、その教訓を生かしながら開発を続けている。例えば、現在商業ロケットの打上げで多くの実績を上げているアリアンロケットも、開発段階では失敗を繰り返したが、そのようなときにも、フランス国民は宇宙開発の着実な推進を支持し続け、フランス政府も戦略をもってプロジェクトを推進した。

わが国は、今回打上げ事故が起こったH-IIロケットの性能を向上させるとともに、製造・打上げコストを半分以下に抑えたH-IIAロケットによって、衛星の商業打上げ市場への参入を目指している。今回の事故原因を早急に究明し、この経験をH-IIAの開発に活かしていかねばならないのはもちろんであるが、技術要求が厳しい先端技術分野であるからこそ、社会の理解と国家的な戦略を持った取組みが不可欠である。特に、わが国では、危機管理のための情報収集衛星の導入とその国産開発方針を決定しており、先端的な技術力を向上させるとともに、基礎となる技術基盤や人材を確保していくために、今、宇宙開発の歩みを遅らせてはならない。

また、わが国の宇宙産業を取り巻く世界的な動きにも目を向ける必要がある。

世界の宇宙産業規模は、1998年時点で約980億ドルだが、資源探査、環境監視、気象観測、危機管理といった分野でのリモートセンシングのほか、GPSのような測位分野、情報通信分野等を中心に、2002年までの4年間で約1.5倍の1,380億ドルに成長するという予測がある。欧米先進各国は、宇宙利用ビジネスの拡大と激しい国際競争を見越して、実利用につながるプロジェクトを推進し、宇宙の商業化、産業競争力強化に力を入れている。

宇宙の実利用が拡大することが予想されている今だからこそ、日本においても、国際競争に打ち勝ち、必要な先端技術基盤を維持するための国家戦略と、進行中や計画中のものを含めた宇宙開発プロジェクトの着実な推進が必要不可欠である。

現在、宇宙を含め16分野で、産・学・官の協力の下、競争力強化に向けた産業技術戦略が検討されている。次期科学技術基本計画をはじめとする国家戦略の策定にあたって、「科学技術創造立国・日本」の技術基盤の一つとして宇宙産業技術を明確に位置付け、推進していくことが重要である。


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