経団連くりっぷ No.114 (1999年12月9日)

経団連意見書/11月24日

「国際競争力ある資本市場の確立に向けて」を建議

−安全性、効率性の高いインフラ整備と関連制度の整備が急務


経団連では、グローバル化の時代に相応しい国際競争力ある資本市場の育成に取り組んでいる。金融制度委員会(委員長:片田哲也小松製作所会長)では、安全性、効率性の高いインフラ整備と会計・開示制度や税制の国際的整合性の確保を通じて、発行体、仲介者、投資家が積極的に参加できる資本市場の確立に向けた諸施策の実行を求めて標記提言を取りまとめ、政府・与党など関係方面に建議した。以下は提言の概要である。

はじめに

金融・資本市場の改革は、法制面においては金融システム改革法の施行で大きく前進している。しかし、資本市場のインフラは、情報技術(IT)の活用で海外に遅れをとるなど、未だ整備の途上にある。そのため、企業は過度に間接金融に頼らざるを得ず、こうした資金調達の多様化の遅れが景気回復の足枷となっているとの批判を招いている。
そこで、安全性、効率性の高いインフラ整備とともに、個人金融資産の受け皿となる集団投資スキームに関するルールの早期整備を進め、直接金融や市場型間接金融の活性化を図ることが急務となっている。同時に、発行体や投資家にとってアクセスし易い資本市場を実現するためには、会計・開示制度の国際的整合性の確保など関連制度の整備も重大な課題である。
このような観点から、発行体、仲介者、投資家といった内外の市場プレイヤーが積極的に参加できる、グローバル化の時代に相応しい国際競争力ある資本市場を育成するため、下記の諸施策の実行を求めるものである。

  1. 安全で効率的な証券受渡・決済制度の確立
    1. 有価証券受渡・決済制度の改革
      個別に運営されている国債、株券、社債等の受渡・決済制度を国際水準に引上げるため、安全性、効率性、利便性の観点から、証券決済システムの統合や合理化の検討開始が自民党において決定され、金融審議会ならびに日本証券業協会で検討が開始された。21世紀を見据えたシステムのあり方の検討を進め、早期に方向づけが示されることを期待したい。
      なお、検討に当っては、DVP 1、一連の取引手続きのSTP 2 化、T+1 3、社債等登録法の見直し等の実現を図る必要がある。また、システム統合にあたり、合理化の早期実現、効率性の追求を踏まえた検討が求められる。

    2. CPのペーパーレス化
      企業の短期資金調達手段の中核として期待されるCPは、券面発行を要する「約束手形」であるため、発行事務の煩雑さと受渡しのリスクが原因となって、発行残高が米国の10分の1程度に止まっている。CP利用の促進には、発行段階からのペーパーレス化を進め、発行・流通市場を整備することが急務である。そこで、有価証券の受渡・決済制度の合理化と統合の検討との整合性を図りながら、システムのあり方と次期通常国会でのペーパーレス化法制の立法化に向けた検討を着実に進めるべきである。
      なお、CD(譲渡性預金)についても、電子化による譲渡手続きの効率化を進める必要がある。

  2. 国内証券取引所の効率化
  3. 取引所集中義務の撤廃を機に、国内の証券取引所の統廃合、株式会社化、電子化を進め、効率的な運営体制を確立するとともに、取引コストや取引時間等で特にアジア市場での競争力を確保することが必要である。その際、私設取引システム(PTS 4)の積極的活用が、市場間競争を通じた取引所の効率化実現の上からも望まれる。

  4. 会計・開示制度の整備・拡充
    1. わが国会計基準に対する国際的評価の改善
      企業会計審議会や日本公認会計士協会は、我が国会計制度の改革について、海外で正当な評価を得るため、対外広報等に努める他、会計士人口の拡大等で監査の質の向上を図り、監査についての信頼を高めることも必要である。また、会計士に対する社会の期待の高まりに即し、使命の明記などの会計士法の改正を要望する。

    2. 海外会計基準の容認
      わが国のグローバル企業が採用しているSEC基準 5 や国際会計基準(IAS 6)による財務諸表を国内でも容認し、国内基準と海外基準による重複作成を回避することが必要である。また、海外の発行体を積極的に招き入れるため、英文財務諸表を含む有価証券報告書の容認の検討を要望する。

    3. 電子開示システムの早期導入
      開示制度の充実の一環として検討が進められている、インターネットによる有価証券報告書等の電子提出開示システム(EDINET 7)の早期導入が求められる。なお、同システムの構築をミレニアム・プロジェクトに位置づけるべきである。

  5. 市場重視の経営手法の多様化
    1. 自己株式消却に係る特例の恒久化
      企業経営者は、近年、ROE向上や持合の解消を目的とした自己株式消却を積極的に進めている。こうした傾向を引き続き支援するために、平成12年3月末までとされている資本準備金による自己株式消却の特例と平成14年3月末までとされている自己株式消却に係るみなし配当課税の特例を恒久化すべきである。

    2. ストック・オプション制度の拡充
      付与対象者の範囲拡大などストック・オプション制度の一層の拡充と同制度の税制上の優遇措置が求められる。

    3. 金庫株の解禁
      目的を問わない自己株式の取得保有、いわゆる金庫株を解禁する。

    4. セーフ・ハーバー・ルールの導入
      ストック・オプションの権利行使や売却に係るインサイダー取引規制、金庫株など自己株式取得に係る相場操縦規制に対し、セーフ・ハーバー・ルール 8 を設ける必要がある。

    5. エクイティ・ファイナンス手段の多様化

      1. 優先株について発行枠の拡大や発行手続きの簡素化等、より利用しやすい環境整備を進める。
      2. 好調な事業部門に対する公正な市場評価を得て、当該事業の円滑な資金調達に貢献できる、いわゆるトラッキング・ストック(経営権や組織形態を分けずに特定部門の業績を基礎に市場から資金調達を行なう種類株式ないし社債)の導入に向けた検討を進める。

  6. 証券関連税制の整備
  7. 国際的整合性のある、証券関連税制の整備を求める。


  1. DVP(Delivery Versus Payment)
    証券の受渡と資金の決済の同時履行。両者が相互に結び付けられ一方が実行されない限り他方も実行されないような決済の仕組み。

  2. STP(Straight Through Processing)
    投資家の発注から、照合、決済に至る一連の証券取引プロセスを電子化し、人手や紙を介すことによって分断されること無く取引を行なうシステム。

  3. T+1(Tは約定を示すTrade)
    約定日の翌日決済。米国では2002年6月を目処にT+1の実現を目指している。

  4. PTS(Proprietary Trading System)
    証券取引所外の私設取引システム。金融システム改革法の施行により、従来の取引所集中義務が撤廃され、認可制により電子媒体等を利用した取引所外での私設取引を行なうことができる。

  5. SEC基準(SECは米国証券取引委員会Securities and Exchange Commission)
    米国の証券取引委員会が容認する会計開示基準。

  6. IAS(International Accounting Standards)
    国際会計基準委員会が設定する国際会計基準。

  7. EDINET:Electronic Disclosure for Investors' NETwork

  8. セーフ・ハーバー・ルール(Safe Harbor Rule)
    当該規定の下で行動する限りは違法とはならない範囲を明確化したルール。米国では、自己株式の取得にあたり、相場操縦に該当しないためのセーフ・ハーバー・ルールが規定されている。


くりっぷ No.114 目次日本語のホームページ