国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/11月24日
当部会では、新しい全国総合開発計画において、美しい国土の形成や多様な地域文化の創出のための有効な方策と位置付けられている「観光」に着目し、地方の現状視察等を通じて、観光が地域活性化に果たす役割や諸課題について検討を行なっている。その参考とするため、運輸省運輸政策局の藤野公孝 観光部長より、わが国観光政策の課題と今後の方向等について説明をきくとともに、意見交換を行なった。
今後の日本社会は、少子高齢化、情報化の進展等を受け、大きく変化していくものと考えられるが、このような状況下、にわかに観光が注目されるようになっている。
旅行総費用額約20兆円、波及効果として約420万人の雇用、約50兆円の生産高を数えるなど、地域振興ならびに雇用創出に大きなインパクトをもたらす観光は、21世紀の基幹産業といえる。また、訪日後アンケートで「人々が親切で好感の持てる国」No.1として認知されるなど、国際観光は国際相互理解の増進に大いに寄与するものである。
小渕内閣は閣議において初めて観光問題を取り上げ、1998年11月の緊急経済対策の中で21世紀先導プロジェクトの一つとして観光振興を位置付けた。また、1999年3月の産業構造転換・雇用対策本部においては、生活空間倍増戦略プランによる旅行平均宿泊日数の増加や、祝日三連休化法の効果により9万人の雇用創出が見込まれ、観光分野について積極的な言及がなされるなど、観光に対する認識は急速に高まりつつある。
わが国観光活動の現状については、日本人の海外旅行者数(アウトバウンド)が順調に増加して1,600万人に達したのに対して、訪日外国人旅行者数(インバウンド)は400万人に過ぎず(世界第32位)、両者間のギャップは顕著である。今後は、訪日外国客数の倍増、来訪地域の多様化を狙いとして1996年4月に提言した「ウェルカムプラン21」に従って、
今後の観光行政のあり方としては、従来のように道路等の社会インフラ整備に依存するのではなく、地域経済活性化のための観光という認識に立って、観光を地域づくり・まちづくりと結びつける必要がある。
21世紀には勤労一辺倒のライフスタイルから脱却し、休暇を取得し易い社会環境の創出等を通じて旅行環境を整備するとともに、現在の国内旅行平均宿泊数1.6泊を2泊に伸ばすため滞在型旅行を促進することが必要である。さらに、地域の観光アドバイザー等を積極的に養成・支援することが雇用対策の上からも不可欠である。
また、国際観光におけるインバウンドとアウトバウンドとのギャップを埋めるためには、台湾、韓国、中国等、鍵を握るアジア諸国について、中国に対する観光団体ビザ発行、九州と韓国とのパイプ強化等によって訪日旅行者を増やすべきである。
結局、住んでいる人にとって住みやすいところは訪れる人にとっても心地よい空間である。今後は、環境に十分な配慮を施しつつ、「観光を通じたまちづくり」をキーワードに、観光関係者のみならず住民が参加する長期的なまちづくりが必要となろう。
観光政策審議会は本年4月、21世紀初頭における観光振興方策について諮問した。今後、審議会の総合部会、観光まちづくり部会において検討を重ね、来年秋を目途に審議会総会において答申する予定である。
国際的な催しとして、2000年沖縄・九州サミット、2001年世界観光機関(WTO)総会日韓共催、2002年ワールドカップサッカー日韓共催、2005年愛知万博開催等が控えており、わが国に対する世界の注目も大いに高まるであろう。
2001年1月には運輸省、建設省、国土庁等が一体となり国土交通省が誕生し、観光行政を所掌することとなる。国民生活の真のゆとりと潤いの創出、国際相互理解の増進、地域社会の振興の観点から、21世紀、観光の重要性が一層増すことは間違いない。