経団連くりっぷ No.115 (1999年12月22日)

なびげーたー

均衡のとれた経済関係が期待される日・EU

参与 太田 元


「共生論議」のきっかけとなった平岩経団連訪欧ミッションから8年、日欧経済関係は大きく変化し、新たな発展の道を歩み始めている。

去る11月、今井訪欧ミッションにお供して、8年ぶりに英独仏白各地で政府首脳、EU委員会幹部ならびに産業界との懇談に陪席する機会を得た。正式な報告は、「月刊Keidanren」2月号に掲載されるが、以下では一変した懇談の雰囲気、その背景に絞って述べることとしたい。

「集中豪雨的な日本の輸出が欧州の産業を苦しめている。欧州の秩序を乱している。」1991年11月、平岩ミッションに対し、ボルボ社のギレンハンマー会長(ヨーロッパラウンド・テーブル会長)が語った言葉である。これが他国の産業との“共生”を考えようという議論のきっかけとなった。

当時、欧州側は日本の輸出を問題視するとともに、日本の市場が閉鎖的と批判した。経団連側は欧州の硬直性や対日市場開拓努力の欠如を指摘した。日本側にはEUが要塞化するのではないかとの危惧もあった。確かに、加盟国の一部にはヨーロッパ・チャンピオンを育てるべきとの考えがあった。

今回、対話は友好的・建設的に終始するなど様変わりであった。投資については、訪問国いずれも雇用創出と発展をにらみ、日本企業の誘致に熱心で、対日輸出・投資についても日本の規制改革への期待を表明しつつも積極的に取組む姿勢を示した。

欧州は動脈硬化症の汚名を返上し、経済統合の過程で規制緩和、リストラを進め、その成果を享受しつつあるようだ。仏の元経団連会長で、のちにUNICE会長を務めたペリゴー氏の、「保護の誤りは明らか。競争を歓迎する。」という言葉は印象的であった。ここへ来て経済が好調なこと、ユーロ導入に自信を持ち、次の10年はヨーロッパがリードする番との指摘もあった。

これと対称的な長期低迷の日本に、欧州の産業が乱されるといった心配は無用というのである。日本についての調査・研究も進み、理解も深まったように思われる。対日輸出も円高の後押しを受け、努力次第として促進活動を展開している。欧米企業による自動車、情報通信等の分野における日本企業の大型買収を日本が変わりつつある証とする空気もある。日本も不況からの脱却に加え、失業、構造改革等の課題を抱える普通の国になり、両者の経済関係は、よりバランスのとれた方向に向かうという見方であろう。今回残念な結果に終わったシアトルのWTO閣僚会議を前にして、日欧がほぼ同一の立場に立ったことも建設的な対話を助長した。

いずれにせよ、今回の今井ミッションを契機に、世界経済の重要なプレーヤーである日欧が一段と相互理解を深め、グローバリゼーションのプラス面を活かしつつ、新たなパートナーシップの道を歩んでいくものと思われる。


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