貿易投資委員会(委員長 槙原 稔氏)/12月10日
貿易投資委員会では、外務省の大島正太郎 経済局長、通商産業省の今野秀洋通商政策局長より、11月30日から12月3日まで米国のシアトルで開催された第3回WTO閣僚会議の模様についてきくとともに懇談した。日本政府はアンチ・ダンピング協定の見直しや投資ルールの実現に向けて努力してきたが、閣僚会議は凍結、中断という結果となった。
閣僚会議自体は凍結、中断という残念な結果となったが、日本政府は、外務・通産・農水の3大臣を中心に、一体となって交渉に臨んだ。
政府の基本方針は、次期ラウンドを立ち上げることを目標としており、日本が原因で次期ラウンドが立ち上がらないような事態だけは避ける、ということであった。
今回の結果は、クリントン米大統領の、労働基準を遵守しない国には貿易制裁も辞さないとの発言に大きな原因があるが、欧州、日本、米国、途上国それぞれが複雑な問題を抱えていた。
米国は、労働問題などをめぐる内政の要素が交渉姿勢に大きな影響を与えた。
途上国は、ウルグアイ・ラウンド(UR)交渉の結果に強い不満を持っており、貿易自由化による利益の享受と義務の軽減という実施の問題の改善を強く求めた。しかし、議長国である米国は、労働問題に加えて後発開発途上国の輸出製品への非関税措置を認めないなど、途上国に対して前向きな姿勢を見せられなかった。
欧州は、農業問題などを中心に早い段階から日本と連携し、現地では、欧州委員会、日本、韓国などが共同で独自に閣僚宣言案に向けての一案を作成し、バシェフスキー議長およびムーアWTO事務局長に提出した。その中において労働問題では、WTOとILO(国際労働機構)による共同フォーラムの設立を提案した。
農業問題で日本は、URでコメのミニマム・アクセスを認めて以来、2000年から始まることが決まっていた農業交渉に向けて周到に準備を進めてきた。シアトル閣僚会議に向けての準備過程、及びシアトルで欧州と緊密に連携しつつ、国土保全や環境保護などの概念を含む農業の多面的機能の重視を強く主張してきた。
今後の見通しとして、来年は米国大統領選挙のために議論が進まない可能性がある。しかし日本は、米国や欧州と協力しながら次期ラウンドの早期立ち上げに向けて努力する。
今回の会議において、最も長時間にわたって精力的に交渉された項目は農業問題であり、会議が頓挫した最大の原因は労働問題である。
アンチ・ダンピング問題では、分科会の議長が全体会議において、米国の孤立化を指摘し柔軟な態度を求めるとともに、協定の見直しが必要であるとの報告をしたにもかかわらず、米国の強い反対によってまとまらなかった。
日本は、(1)ほとんどの途上国がダンピング・ルールの見直しに関心を寄せていること、(2)ダンピングの提訴件数、税を賦課している国ともに過去5年間で急増していることを主張し、21世紀がアンチ・ダンピング戦争に陥り自由化の利益が損なわれないようルールの精緻化を求めてきた。
投資に関しては、投資受入国の国内制度の透明性・法的安定性といった基本的なルールを取り上げるよう主張し多くの国から理解を得た。
かつてのガット閣僚会議でも失敗と反省を繰り返しWTOの創設までに12年も費やしている。よって今回の失敗もそれほど悲観する必要はない。
当面は、世界サービス会議(WSC)などを通じた各国産業界のつながりが非常に重要であろう。経団連も日本の産業界の声を積極的に発信して欲しい。
今後の見通しとしては、現在の米国の交渉ポジションが維持される限り、いつどこで閣僚会議が開かれてもまとまることはないだろう。
さらに来年は、米国大統領選挙があるので、政府間の議論の進展には困難が予想される。