経団連くりっぷ No.117 (2000年1月27日)

評議員会議長挨拶

那須評議員会議長

構造改革の着実な推進

那須 翔



景気は漸く回復へ

バブル崩壊後、日本経済は厳しい調整局面を経験した。1995、96年度とも一旦、その淵から脱したかに見えたが、バブルの後遺症は予想以上に深刻で、97年秋以降、金融機関の破綻を契機に金融システムに対する不安が高まり、アジアの経済危機がこれに拍車をかける形で、景気が急速に冷え込んだ。その結果、GDP成長率は1997年の10―12月期から5期連続してマイナスという、戦後最悪の不況を経験することになった。
このような危機的な状況の中、昨年7月末に発足した小渕政権は、金融システム安定化のための法的な枠組みを整備するとともに、減税や公共事業の拡充など思い切った景気対策を実行した。
また、日本銀行も実質ゼロまで金利を引き下げるとともに、最後の貸手として金融システムの安定維持に努めてこられた。こうした財政・金融政策の下支えがあり、また、アジア経済の回復などに伴う外需の伸びにより、景気は漸く回復の方向にむかい、昨年10月に13,000円を割り、バブル崩壊後最安値を記録した株価も18,000円を超え、企業の景況感も次第に改善してきたといえると思う。
この間、経団連は先頭に立って、金融システムの安定化や大規模な経済対策の実行を政府や与野党に対し粘り強く働きかけてきた。また、企業自らが構造改革を推進し、競争力を強化するために、経団連の提唱により「産業競争力会議」が設置された。同会議における審議を経て、「産業活力再生特別措置法」が成立するなど、企業組織の再編、産業活力再生に向けた法制・税制の整備も進められつつある。
さらに、いわゆる「ミレニアム・プロジェクト」といわれるような21世紀に向けた科学・技術基盤の強化も図られつつある。この間の今井会長のリーダーシップならびに執行部の方々のご尽力に改めて敬意を表する。

更なる改革が必要

ただ、これで安心して21世紀を迎えることができるのか、また、「魅力ある日本」を次の世代に引き継ぐことができるのかとなると、残念ながら疑問符をつけざるを得ない。すでにその役割を終え、機能不全を来している諸制度の改革は道半ばであり、経済のグローバル化、少子・高齢化、さらには情報化など、急速に進む経済社会の構造変化への対応が未だ不十分と考えるからである。引き続き、税制・法制の抜本改革、大胆な規制改革の断行、持続可能な社会保障制度の確立など、構造改革を着実に推進していく必要がある。
また、当面は政策による景気の下支えが必要であるとしても、わが国の財政事情を勘案すると、財政に過度に依存したこれまでの運営を脱し、財政再建を視野に入れた経済運営のあり方を是非検討していただくようお願いしたい。
執行部においては、筋の通った改革が行なわれるよう、今後とも積極的に議論をリードしていただきたい。

豊かで活力ある経済社会の構築

今後の課題としては、21世紀において日本経済を牽引していくリーディング産業をどのように捉え、どう育成していくかという問題がある。既にキャッチアップ過程を終えた日本経済にとって、これまでのように、特定の産業分野を取り出して、その育成を図っていくというのは、適切なアプローチであるとは思えない。
むしろ、より豊かな生活を実現するための産業、少子・高齢化に対応した医療や福祉サービスの提供、ニューフロンティアを切り開く産業といった、横断的、複合的な産業あるいは産業群が、今後の日本経済の成長を支えていくのではないかと思われる。もちろん、これらの産業の発展を担うのは、企業自身であるが、規制改革、社会資本の充実などの環境整備については、政府に求めていくことも必要となろう。
いずれにしろ、豊かで活力ある経済社会の構築に向けて、リーディング産業の創出、育成策について検討していただきたい。
西暦2000年という大きな節目を、新たな世紀に向けての発展基盤を強化する年と位置づけ、これまで積み残してきた構造改革の諸課題を一掃し、民需主導の自律的な経済発展を実現していただきたい。
また、来年は、先進国サミットが沖縄で開催されることになっている。日本としては、内向きになるばかりでなく、いろいろな面で世界からも注目され、また外に目を向けた対応が求められるところであり、そういった年になろう。
経団連には、グローバルな視点に立って、この国を正しい方向へリードする大きな使命があると思う。


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