経団連くりっぷ No.117 (2000年1月27日)

来賓挨拶

堺屋 経済企画庁長官

新しい知恵の時代に踏み出す2000年代

経済企画庁長官 堺屋太一



経済企画庁では、来年度の予算編成において、「経済運営の基本方針」を定め、この中で3つの目標を明示した。

その第1は景気振興を続け、官需から民需への円滑のバトンタッチを行なうことにより、2000年度に1%の経済成長を実現すること、第2は構造改革を定着させること、第3は多角的な世界経済の発展とアジア諸国との連携を強化することである。

現在の景気動向については、生産指数、雇用指数等が僅かながら上昇していることから見て、緩やかに向上しているといえる。来年度は更に勢いをつけ、民間設備投資が1.4%のプラス、消費需要が1.0%のプラスになるものと見込んでいる。

過剰設備を抱える企業が多い中で、設備投資が活発化することは考えにくいとの指摘もあるが、設備投資とは現在の過剰施設がなくなって生まれるものではなく、新たな設備需要が登場することによって生まれるものである。現在は、まさに産業需要の転換点に差し掛かっており、政府としても新たな需要が出るような政策を講じていきたい。

2点目の構造改革については、小渕政権誕生後1年半の間に大きく前進することができた。金融では過去に想像もできなかったことが現実になっており、産業構造の問題でも従来と異なりリストラの公認という態度が生まれてきている。中小企業政策も大きく転換し、これまでの格差是正という目標を多様な中小企業の振興という形に変えた。併せて、雇用の流動化もかなり進んでいる。こうした改革が積み重なって世の中が大きく変化する時期が2000年なのではないかと思う。

また、小渕総理の提案によって始動した、情報化、高齢化、環境対応の3分野の技術開発を進める「ミレニアム・プロジェクト」や、これまでの都市計画概念を大きく変え、徒歩圏内に住宅、商業施設、医療施設、教育施設、文化施設等を混在させるという「歩いて暮せる街づくり」プロジェクトの推進を図っていく。

経済企画庁では、高齢化社会の全体像と循環型社会の産業構造という2つの大きな研究テーマに取り組むとともに、わが国の情報環境を抜本的に変えるための新千年紀記念行事を進めていく。これは2000年末から2001年末にかけて、全国の都道府県を主体としたインターネット上の行事を展開するもので、政府がそうした行事を行なうことによって、インターネットの利用拡大に繋げたいと考えている。

財政状況については、昨今の新聞報道等では財政再建に向かうべきとの論調が目立つが、現在の不況という病気の状態で収入と支出を議論するのではなく、経済が立ち直り健全になった状態で、その出発点をどう考えるかが重要な問題である。

わが国の1990年代は非常に憂鬱な時代であったが、漸く新しい知恵の時代に踏み出せる時が来た。これを機に、新たな産業構造、情報環境、国際関係を創造していきたい。


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