産業問題委員会第5回会合(共同委員長 瀬谷博道氏・西村正雄氏)/12月21日
産業問題委員会では、東京大学大学院経済学研究科の吉川洋教授を招き、「21世紀のリーディング産業・セクターの創出・育成」をテーマに説明を受けるとともに、意見交換を行なった。また、今後の産業問題委員会の活動についても討議した。
バブル崩壊以降、1992年から98年の7年間の平均成長率は1%であった。これは、歴史的にも国際的にも極めて低く、このことが失業率の上昇、企業業績の悪化として現れている。
バブル崩壊以降、金融の抱える問題がクローズアップされてきた。新たな金融システムの構築や不良債権の処理が先延ばしにされる中で、1997年後半から本格的なクレジット・クランチが発生し、それがマイナス成長をもたらした。不良債権が発生した原因は、1980年代における東京圏のオフィスビルやリゾート関連の需要に対する誤った認識にあった。その意味で、需要を的確に捉えることは、21世紀のリーディング産業を考える上でも重要なポイントである。
製造業の技術競争力の高さは、現在の日本経済の大きな柱である。その製造業のもたらした成果として為替の上昇がある。プラザ合意後の長期的な円高は、基本的には貿易財の購買力平価の上昇に沿ったものであり、日本の製造業、輸出産業の競争力、生産性上昇率の向上によりもたらされた。また戦後の平均寿命の上昇も日本社会が経済にもたらした最大の成果の一つである。
一方で、製造業と非製造業の労働生産性の格差が拡大していることは問題である。オイルショックを転換点として製造業は資本装備率、労働生産性ともに伸びているが、非製造業は、資本装備率は伸びたものの、労働生産性は停滞している。
いずれにしても日本経済にとって、需要を健全に伸ばすことが最重要の課題である。高度成長期におけるエネルギー革命(石炭から石油への転換)は、モータリゼーションの急速な進展とプラスチック製品の利用拡大をもたらしたが、政府も大型港湾の建設などインフラ整備に取り組んだ。石油が未来の根幹となることを明確にしたことで、新しい需要が生まれたわけである。
今後、生産年齢人口が毎年0.2%ずつ減少するとされている。しかし、戦後の経済成長は、資本、TFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)の寄与が大きく、労働の寄与は小さい。労働は経済成長の決定的な要因ではなく、就業人口の減少を捉えて将来の日本経済を悲観視するべきではない。エンゲルの法則に示されるように、どの産業においても需要は必ず頭打ちになる。重要なことは、常に高い成長率をもつ産業を創出することである。米国の1990年代のIT革命においても、TFPの伸びは必ずしも大きくなかった。需要の大きな財が次々と創出されたことが、米国の経済成長につながったのである。
リーディング産業として必要な要件は、需要が大きいこと、技術進歩率の高いこと、スケールメリットがあること(収穫逓増が働くこと)、輸入を賄う輸出力があること等である。しかし、19世紀の英国において強大な海軍力を背景とした海運業が経済を牽引したようなかたちで、特定産業が一国の経済を牽引する必要は必ずしもない。いくつかの産業がリーディング産業として複合的に経済発展を担うべきである。
需要の創出のためには、マクロ的観点から大まかな方向が示されることが必要である。先端産業であるバイオ、情報通信などについても、それがどのように使われるかが重要である。たとえば、情報通信は、その拡大により在宅勤務が進み、居住が地方圏に分散することも考えられることから、国土計画にも関係する。
政府は技術について正確な情報を収集し、それに基づき日本経済が進むべき方向を大胆に示し、リーディング産業を明確に定義した上でその育成に努めるべきである。その際、かつてのエネルギー革命の例にみられるように、インフラ整備が重要である。特に公的インフラについては、財政逼迫時においてもその整備が求められよう。また、投資減税、連結納税制度等の税制面の改革、大学・国公立研究所等における基礎研究の振興も必要である。
今後産業問題委員会では、需要創出を通じた持続的な経済成長を実現し、豊かで活力のある経済社会を構築する観点から、リーディング産業の創出・育成の問題を取り上げ、検討を進める。
その際、総論部分については、主にワーキンググループにおいて検討することとし、「快適で潤いのある生活の実現」「創造的な技術革新を通じた国際競争力の強化」「ネットワークの高度利用による付加価値の創造」の各論については、ワーキンググループの中に設置する検討チームにおいて検討を進める。