経団連くりっぷ No.118 (2000年2月10日)

なびげーたー

東京圏の再生により日本の再生を

産業本部副本部長 林  正


今後、都市は、ますます生活、産業活動の中心舞台となっていく。そうした状況のなかで安心して生活できる場として、活力ある経済活動が行なわれる場として都市を再構築していかなければ、わが国経済の活力も失なわれる恐れがある。

東京圏は、3,300万人の人口を抱える世界有数の大都市圏であり、域内での総生産力は、イギリスやイタリアにも匹敵する規模を有している。しかし、空港から遠い、道路が混雑している、住宅の価格が高く遠距離通勤を強いられるといったことから、東京の都市環境は諸外国の主要都市と比べて極めて貧弱であり、国際都市としての魅力は薄れてきている。このままでは東京圏のみならずわが国全体の活力の低下にもつながりかねない。今こそ東京圏を働きやすく、暮らしやすいエリアへと再生させていくことが必要であり、そのためには都市の骨格を大胆に改造していかなければならない。

このためには、第1に交通基盤を整備することが重要である。東京都では、都内の交通渋滞の損失額を年間4兆9,000億円と試算している。また、環境面においても交通渋滞により排出される大気汚染物質は、渋滞のない場合に比べて3割多いとの試算もあり、これらを解決するためには、都心を通過する車を迂回させる環状道路の整備が必要である。環状道路の整備は、東京圏の各都市を広域的なネットワークとして結び付けるだけでなく、日本列島の西と東をスムースに結び付ける役割を高めることとなる。

第2に、土地の有効・高度利用により市街地の再開発を進めることが肝要である。具体的には都心における居住機能を高め、勤労者を通勤地獄から解放するとともに、「歩いて暮らせる街づくり」を進め、子供や高齢者、障害者にも安心して暮らせる都市をつくることが大切である。このためには、都心部の土地を高度に利用しなければならない。ところが東京都区部については、全体として指定容積率の半分程度しか使いこなせていない、だいたい2階程度の建物しか立っていないという状況にある。こうした低層利用しかできないのは、敷地が細分化され、道路が狭いということが大きな原因となっており、市街地の再開発を進めるためには、街路・街区の整備を行ない、美しく、災害に強い街並みをつくることが最重要の課題である。

第3に、以上の都市基盤の整備のためには、公共の福祉の観点から私権の制限も必要となる。経団連では、「都市再生戦略地域」といった制度を創設し、例えば都市防災の観点から問題となっている木造密集市街地をこの制度の対象として指定して、思い切った再開発誘導策と必要な私権制限を行ない、官民の資源を集中的に投資して、一定の期間内に再開発を実現させることとしてはどうかと提案している。あるいは、この制度を活用して緊急の課題である廃棄物の処理およびリサイクルの推進に向けて、臨海部の工場跡地などを活用したモデルプロジェクトを展開することは時代の要請にも適うものと思う。


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