経団連くりっぷ No.118 (2000年2月10日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/1月26日

フランスにおける観光政策から日本は何を学ぶべきか


地方振興部会では、わが国観光政策のあり方をめぐって具体的な検討を行なっている。観光は地域活性化に大きな役割を果たし、観光産業による経済的波及効果も大きい。加えて、国際的な相互理解の促進の効果も期待され、外国人観光客の誘致促進にも力を入れる必要がある。そこで、フランス政府観光局のカトリーヌ・オーデン局長より、フランスにおける観光戦略について説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. オーデン局長説明要旨
    1. フランス観光の成功の秘訣
    2. 国内総生産(GDP)に占める観光の割合は世界全体で5〜7%であり、年間延べ6億人という現在の国際移動は、2020年には15億人前後に達する見込みである。
      1998年、フランスは7,000万人以上の外国人観光客(うち日本人100万人)を迎え、世界第1位の観光客受入国であった。フランスにおいて、観光産業の規模はGDPの8%に相当する6,500億フラン(約13兆円)と見積もられており、雇用機会創出、国土整備、国際収支の安定化等に決定的な重みを持っている。
      フランスが観光分野で成功を収めている背景として4つの要因が考えられる。
      第1に、政府主導の国内観光奨励の効果もあり、フランス人はあまり外国に出かけず、国内に留まっているという事情がある。
      第2に、

      1. 地方ごとに異なる風景、文化、伝統の多様性、
      2. 「アール・ド・ヴィーヴル(=衣食住の知恵)」に結びついた独自性による滞在の面白さ、
      3. 欧州の中心部に位置する地理的優位性、
      等、フランスは観光地として非常に恵まれている。
      第3に、長期滞在海水浴タイプから複数観光地の短期滞在へと観光需要が変化している中、フランスの伝統的観光資源の多様性が外国の観光客を惹きつけている。
      第4に、古城を改築した優雅なシャトーホテルでも食事込2人部屋1泊料金が平均1,200フラン(約24,000円)で提供されるなど、旅行商品の費用対効果に優れている。

    3. 観光行政の仕組み
    4. フランスの観光行政においては、数多くの市町村、96県、22レジオン(地方)という三つのレベルに応じて個別の機能が定められている。
      例えば、市町村がヨットハーバーやスキー場設備等、観光客向け地区を整備する一方、県は特に広域的なハイキング・散策コース等の整備を担当する。
      また、レジオンは、観光ゾーンの整備にあたって国家との間で国土整備に関する「計画契約(contrat de plan)」を結び、その対象となる地方計画を作成し、地方自然公園の創設等を所轄している。なお、これらの観光客用設備の建設・経営は、レジオンの第三セクター企業や商工会議所に委託される。

    5. 政府観光局の任務と活動
    6. 1987年に、800の会員を数える半官半民の形態に移行して以来、フランス政府観光局は、国外において、フランス本土・海外領土の観光分野のイメージ、商品、エンジニアリングに関する情報提供およびプロモーション活動を策定・実施することを任務としている。観光局への民間の加入は任意であり、年会費を払えば、共通のマーケティングに基づき提案される活動に参加できる。予算総額は3億6,400万フラン(約73億円)を数え、51%が地方公共団体や民間との提携によるものであり、地方観光委員会:運輸業者:その他=1:1:1という内訳になっている。
      現在、観光局は「量の観光から質の観光へ」という基本戦略に沿って活動している。具体的には、

      1. 欧米や日本の市場に重点を置いた活動、
      2. フランスのイメージ・地位の向上、
      3. インターネット等による大衆向け広報活動、
      4. パック旅行等におけるフランスのシェア拡大等
      に努めており、日本では「フランスワイン街道キャンペーン」や若年層向けパリ情報雑誌発行等、各種の活動を展開している。

    7. 観光の発展に寄与した事例
    8. 近年、フランスのイメージおよびフランス観光の発展に寄与した国際イベントとして、日本各地で開催された「日本におけるフランス年」(1998年春〜1999年春)、フランス各地で開催されたサッカーのワールドカップ大会(1998年6〜7月)が挙げられる。前者は、シラク仏大統領が1996年11月に承認した国家プロジェクトで、「永遠の国」「発明の国」「芸術の国」「日本人の心の中の国」という4つのテーマのもと各地でイベントを展開し、「フランスまつり」開催等によって日本人に知られていない多様なフランスの側面を紹介することができた。
      後者については、政府と民間業者との間で宿泊料金等の高騰を防ぐ適正価格協定を結ぶなどの措置を講じ、フランスという国のイメージアップに成功した。

    9. 日本の観光産業の発展に向けて
    10. 日本は素晴らしい文化・伝統等の観光資源を備えているにもかかわらず、物価高、過度の工業化、コミュニケーションの困難さ等、定着したイメージのため、外国人が訪れにくい国となっている。日本をより身近にするためには、こうしたイメージを払拭するキャンペーンを行なう必要がある。
      例えば、日本中にある同一チェーンのホテルに5泊すると6泊目が無料になるといったタイプのホテルパスを開発してはどうか。また、日本の優れたサービス精神、安全性等を強調するとともに、駅での英語表示、テーマ別観光コースの設定等を推進すべきである。
      私自身は、外国人であるという理由だけで旅館の宿泊を断られた経験が何度もある。 こうした日本旅館の閉鎖性、サービスの悪さを改善することが外国人観光客の増加につながると思う。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    高山などの観光地はインフラが整備されておらずアクセスが困難だが、官として何を行なうべきと考えるか。

    オーデン局長:
    高山に行くのは確かに不便だが、政府・自治体は豊かな自然を残し、むしろ、外国語パンフレットを作成するなどの広報活動を充実すべきではないか。


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