日本ロシア経済委員会（委員長安西邦夫氏）／１月13日

ロシアの政治情勢は安定の兆を見せつつある

－ロシア下院選挙の結果と大統領選挙に向けた政治情勢に関する懇談会

ロシアでは、下院選挙直後の昨年12月31日にエリツィン前大統領が突然辞任した。これに伴い、プーチン首相が大統領代行に就任し、大統領選挙は３ヵ月繰り上げて３月26日に行なわれることとなった。懇談会で講師として招いた上野俊彦日本国際問題研究所主任研究員は、「ロシアの民主主義は、初期段階にあるが徐々に定着しつつある。下院選挙の結果、議会は政権与党『統一』を中心にプーチン支持勢力が優勢であるほか、大統領選挙もプーチン氏当選の可能性が高い。政治情勢は全般的に安定に向かうものと考えられる」と述べている。

上野主任研究員説明要旨

ロシアの選挙制度

1989年以来、民主化が進められ複数政党制と自由選挙制度が定着した。立憲主義に基づく選挙制度の基礎を築いたことはエリツィン前大統領の歴史的業績である。

＜選挙制度の概要＞

連邦議会は二院制。上院は89の連邦構成主体（共和国、州、特別市、地方、自治州、自治管区）の首長と地方議会議長で構成され178議席。首長、地方議会議長は直接選挙で選出されるので上院議員選挙はない。

下院議員の任期は４年。小選挙区比例代表並立制で両区とも225議席ずつ450議席。
小選挙区は各１議席で議員名を、比例代表区は全国１区で政党名をそれぞれ記入。

今回の下院選挙は1993年採択の新ロシア憲法に基づく３回目の選挙。

各党の概要と今回の選挙結果の評価

共産党：
党組織と支持基盤を有する唯一の政党。共産党は議席の25％（95議席）を確保し堅調。議席数は減少したが、得票数は若干増えたことから過小評価はできない。
「統一」：
ショイグ緊急事態相が投票日の２ヵ月前に立ち上げ、プーチン氏が支持を表明したことから政権与党と見做される。
今回の選挙で第二党（72議席）となった。わずか２ヵ月で躍進したのは、プーチン氏の支持、チェチェン復興に努力するショイグ党首の姿をテレビ放映した政権側の支援と国民的人気のスポーツ選手を候補者に立てた点が大きく幅広い支持を得るに至った。
問題は、党の活動方針が明らかでなく組織も確立されていない上に、当選者の政治的経験も未知数であることから議会運営に支障が生じたり、大統領府との関係で議会が力負けする可能性がある。
こうしたにわか作りの政党が第二党となること自体、ロシアの民主主義が初期段階にあることを示唆している。
「祖国－全ロシア」：
ルシコフモスクワ市長が率いる「祖国」と、知事で構成する「全ロシア」の連合体である。「全ロシア」は下院を通じた連邦政府への影響力行使を目論んでおりプリマコフ元首相をトップに据えている。ルシコフ市長はモスクワ市の経済発展で評価され、プリマコフ元首相の信頼度も高いことから、昨夏まで最強の政治団体と考えられていた。しかし、政権側がメディアを通じ、両者を中傷、誹謗したことで人気が急速に低下した。今回の選挙では苦戦を強いられたが、67議席と「統一」に肉迫している。
「右派」：
キリエンコ元首相、ネムツォフ元第一副首相、イリーナ・ハカマダ元小規模企業支援・発展国家委員会議長という若手改革派のグループでガイダール元首相代行が後押ししている。市民に人気がないとみられていたが、議席数の５％を確保した。キリエンコ元首相がテレビで人気上昇中のプーチン氏と握手するなどのパフォーマンスが奏効したと見られる。
ヤーブロコ：
チェチェン紛争に絡むテロ続発中にヤブリンスキー党首が和平を提言したことから選挙結果は不振であった。
自民党：
ジリノフスキー党首が福祉、外交面で大胆な政策を打ち出し、1993年にはジリノフスキー現象を巻き起こしたが、政策上の裏付けが乏しいことが露呈し長期低落傾向にある。

大統領選挙の見通し

エリツィン前大統領の辞任には、

後継指名したプーチン首相の人気が高い間に大統領選挙を行なう、
下院選挙の結果は有利となった、
恒例の大統領年末挨拶を活用、
ミレニアムとともに新リーダーを迎える、
新選挙法が12月31日に発効した、

大統領選挙後の状況

プーチン人気は本人のパーソナリティと対チェチェン政策によるものでエリツィンの後継者とは見られていない。そこで、プーチン政権が誕生した場合、まず、批判の対象となっているエリツィン・ファミリーからの離脱が課題となる。閣僚は、「統一」などからの登用も考えられるが、専門家の起用が基本である。
外交政策は、ゴルバチョフ時代、欧米との関係を重視した。エリツィン政権は、1993年以降、NATOの東方拡大への対応策として対中関係等ユーラシアを重視しており、新政権もこの路線は継続するだろう。

新政権の対日政策

プーチン氏自身、柔道をやり、日本文化に関心を持っているので全く日本に無関心というわけではない。NATO東方拡大との関連でNATO加盟国ではない日本のG７内での重要性が増す可能性はあるが、当面、日ロ関係は現状維持だろう。

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