経団連くりっぷ No.118 (2000年2月10日)

アジア大洋州地域委員会(委員長 熊谷直彦氏)/1月19日

アジア諸国に対する人材育成協力への
民間参加のあり方を考える


アジア大洋州地域委員会では、「アジア諸国に対する人材育成協力への民間参加のあり方を考えるセミナー」を開催し、外務省、通産省より政府の対応につき説明をきいた。あわせて、人材育成協力プログラムを実施する国際協力事業団、海外技術者研修協会、海外貿易開発協会、海外職業訓練協会、国際研修協力機構の各団体からプログラム内容等について説明をうけた。

  1. 外務省 大部一秋 技術協力課長 説明要旨
  2. 人材育成は20年前から変わらず重要な課題であるが、そのアプローチには変化が見られる。かつては人造りは国造りの手段として捉えられていたが、現在では「じんざい」を「人材」ではなく「人財」と考え、人間一人一人が財産であるとの考えが主流となりつつある。
    人材育成の新しいあり方として、「問題解決型アプローチ」、「総合的アプローチ」、「パートナーシップ」が重要である。政府ベースの人材育成についても官中心から企業、シンクタンク、NGO、大学関係者等の民間部門による参加が増えてきたが、さらに官民の連携を図っていきたい。現在のJICAによるプログラムは政府ベースで実施され、特定の民間企業を直接支援することはできないが、例えば、途上国政府を通じて個別企業へのコンサルティング・サービスを提供していくなど、企業のマネジメントレベルでの官民連携のあり方を検討している。

  3. 通商産業省 塩沢文朗 技術協力課長 説明要旨
  4. 通産省としては、市場メカニズムに基づく効率的、効果的な人材育成への協力を実現していくことが重要と考えている。今後の人材育成協力では、政府、業界・経済団体、個別企業の三つのレベルでの協力を「総合的」に捉え「官民連携」により途上国の人材育成を支援していきたい。特に、中小企業団体、商工会議所等、制度、法律を実施、運用する業界・経済団体レベルでの協力は、これまで十分に行なわれていないとの反省から、今後は積極的に取り組んでいきたい。例えば、タイの中小企業支援については、まずマスタープラン策定支援のため専門家を商工大臣のアドバイザーとして政府へ派遣した。これをうけて策定された中小企業振興法の実施に関し、中小企業診断の専門家を業界団体へ派遣、ついで経営支援のための専門家を個別企業へ派遣している。

  5. 各人材育成プログラムの概要
    1. 国際協力事業団(JICA)
    2. JICAのアジア経済危機対策に関する支援には、社会的弱者救済のため食糧、医薬品、教育機会、雇用の確保に向けたソーシャル・セーフティ・ネット支援対策、経済安定化のためマクロ経済の安定化(金融政策支援等)や産業構造の再編(中小企業支援、裾野産業の育成など)支援等がある。
      インドシナ諸国に対しては、市場経済化・重要中枢政策支援を通じて効率的な市場経済システムづくりや法整備を支援している。
      今後は「東アジアの人材育成と交流の強化のための小渕プラン」を推進するとともに、「アジア経済再生ミッション」等の各種調査結果、提言等を受けて、複雑かつ多様化するアジア各国のニーズに的確・迅速に対応すべく引き続き努力していきたい。

    3. 海外技術者研修協会(AOTS)
    4. AOTSは、1959年の設立以来40年にわたって、海外産業技術者の研修を通じた国際経済協力の推進、わが国と途上国相互の経済発展と友好関係の増進に寄与してきた。AOTSの主な事業は、通産省からの補助金により実施され、従来からの民間ベースによる現地産業人材育成を目的とする「産業技術者育成支援研修事業」(研修生への支給金の75%をAOTSが補助)に加え、1999年度からは「産業構造支援研修事業」を実施している。アジア危機危機に対応する支援策としては、1998年度補正予算により「アジア1万人現地研修事業」を実施し、約2,000社、3万人からの参加申込みがあった。

    5. 海外貿易開発協会(JODC)
    6. JODCは、1979年より発展途上国の民間企業における産業技術の向上、または現地の政府機関、工業会などが推進している産業構造改革事業を支援するために、通産省の支援を受けて各国への専門家派遣を推進している。主な事業として、従来からの民間ベースによる現地産業人材育成ならびに技術移転を支援する「産業技術等向上支援専門家派遣事業」(派遣費用はJODCが3/4負担、1/4は受入企業負担)に加えて1999年度からは経済産業構造改革推進のための官民人材育成策として「産業(経済)構造改革支援専門家派遣事業」(派遣費用をJODCが全額負担)を実施している。
      アジア経済危機に対しては、「アジア支援型専門家派遣事業」「中小企業技術者等派遣事業」「アジア産業(日系企業等)再生支援専門家派遣事業」「中小企業経営支援型専門家派遣事業」を実施し、派遣経費のほぼ全額(除、現地業務費)をJODCが支援している。

    7. 海外職業訓練協会(OVTA)
    8. OVTAは1982年に設立された労働大臣認可による財団法人で、外国人を指導できる企業人材の育成を通じた国際協力を活動目的としている。主な事業には、「海外職業訓練指導者養成事業」「シルバーコンサルタント制度」「APEC人材養成技能研修事業」等がある。「APEC人材養成技能研修事業」は1997年度から開始され、APEC域内の開発途上国で事業を行なう日系現地法人が自社以外の現地住民に対する技能研修を実施する際その経費の一部を補助するプログラムである。これまでに2,677名の技能者が同プログラムに参加している。

    9. 国際研修協力機構(JITCO)
    10. JITCOは1991年に設立された法務、外務、通産、労働、建設5省共管による財団法人である。活動目的は、外国人研修生の受入の拡大と円滑化を図り、わが国の技術、技能または知識を開発途上国等に積極的に移転し、これらの国の人材の育成と経済社会の発展に寄与することである。主な事業は、研修生の受入れに関する各種手続き等(入国、在留手続き、保険加入等)への助言・援助、研修に関する教材、指導書等の研究・開発および刊行、研修生の技術、技能または知識の評価に関する援助等を行なう機関である。


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