経団連くりっぷ No.119 (2000年2月24日)

なびげーたー

今日の現状維持は明日の衰退を招く

常務理事 立花 宏


日本経済が持続的な成長を実現するためには、規制改革の断行が不可欠である。規制改革の先送りは、将来においてさらに困難な事態を招くことになる。

わが国における規制改革は、英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権の取組みから約10年遅れて、1990年代に入ってようやく本格化した。政府は1995年度から規制緩和推進3か年計画をスタートさせ、今年度は第二次3か年計画の二年目にあたる。これまでの進捗度を登山に喩えれば、計画は6合目までたてられたが、実際に登ったのは3合目というところだろうか。これからがいよいよ険しい局面に差しかかる。

ところが、最近、政界の一部から、規制改革を見直そうという声が上がっている。これらは、「タクシー業界は台数が増え、競争が厳しくなったので、需給調整をやめないで欲しい」、「ガソリン・スタンドの安売りをやめさせて欲しい」、「酒屋、コメ屋、タバコ屋をつぶさないで欲しい」といった選挙民の声を反映したものであろう。

確かに、収入が減ったり、つぶれるタクシー会社や商店の人にとっては深刻だ。中心市街地の活性化も必要だし、独禁法を厳正に適用することも必要であろう。労働稼動の円滑化のための措置もさらに強化する必要がある。

しかし、規制改革を止めてしまう、あるいは逆戻りさせるとなると、ようやく回復に向いつつある日本経済は内外の信認を失ない、元の木阿弥となりかねない。何よりもハラをくくって経済の困難に立ち向おうとする人々の意欲を殺いでしまう。

規制改革は、参入規制を緩和し、競争の促進を通じて経済社会のイノベーション、たとえば新たな技術や財・サービスの開発、

新しい事業モデルや事業経営形態の導入、といった革新を起こすという視点が重要である。

経団連は昨年12月6日に、米国、EU、加、豪、NZの駐日大使館・代表部と規制改革シンポジウムを共催した。それぞれ本国から政府、産業界、学界の有力者が参加したが、一様に「苦しい状況に置かれていたからこそ、規制改革に取り組んだ。規制改革は、持続可能な経済成長を実現するために不可欠であり、先送りすれば、将来においてさらに困難な状況を招くだけだ。」と指摘した。

開発経済学者であるプリンストン大学のハーシュマン教授によると、組織や社会を改革するのは、VOICE(声)とEXIT(退出)の2つがある。改革を求めるグループがさまざまなVOICEを上げる。しかし、なかなか改革が実現しないと、そのグループは失望してEXITし、結果としてその組織や社会は空洞化し衰退するという。

今日の現状維持は、明日の空洞化、衰退を招くことになる。


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