経団連くりっぷ No.119 (2000年2月24日)

中南米地域委員会(委員長 岸 曉氏)/1月27日

日本と中南米との経済関係の強化を

−在中南米諸国大使との懇談会を開催


中南米諸国大使会議に出席するため一時帰国中の在中南米諸国大使および外務省の堀村 隆彦 中南米局長他を招き、中南米各国の情勢を中心に説明をきくとともに懇談した。中南米諸国の経済は、自由化・民営化の推進により全体的に1990年代を通じ安定的な成長を遂げており、今後日本企業も貿易・投資関係を強化して欲しいとの意見が多く出された。

  1. 堀村中南米局長
  2. 失われた1980年代、安定と発展の1990年代を経た中南米諸国は、国際社会におけるプレゼンスを高める一方で、グローバリゼーションの影の部分として、所得格差の拡大、治安の悪化など社会問題を生じている。
    日本企業のプレゼンスは着実に増加しているものの、欧米企業ほど活発ではない。今後、政府は、貿易・投資上の障害の除去、ODAの活用などを通じて民間企業の活動を側面から支援していくつもりである。また、中南米の食糧・エネルギーの供給先としての重要性は依然として高いことに留意すべきである。

  3. 木島駐アルゼンチン大使
  4. 政治面では、1983年の軍政終了後進めてきた民主主義が完全に定着した。
    経済面は、全体として良好であるが、グローバリゼーションの影の部分が目立ってきている。特に外資系企業の合理化による大量の解雇の結果、失業率が上昇している。
    こうした中、昨年10月の選挙で当選したデ・ラ・ルア大統領は、国民に不人気な所得税増税法案を敢えて国会に提出するなど、大胆な改革を進めている。

  5. 成田駐チリ大使
  6. 1990年代を通じ高い成長率を維持してきたチリ経済も、アジア危機の影響(特に銅価格の下落)で後退し、昨年はマイナス成長の見込みとなっている。しかし、健全財政、民営化、経済の自由化など基本的なマクロ経済政策に変更はないと思われる。
    日本からの投資は低水準であるが、チリはアジアとの経済関係の強化を目指しており、積極的に進出して欲しい。

  7. 鈴木駐ブラジル大使
  8. 昨年1月の経済危機の際の悲観論は、年末には一掃され、昨年は0.5%のプラス成長、8.9%のインフレ率、約300億ドルの直接投資受入れなど経済は完全に回復した。他方で、IMFが指摘するように外資依存、巨額の財政赤字といった構造問題が今後の課題として残っている。
    日本企業は、直接投資の面で欧米企業に大きく出遅れている。約150万人の日系移民や1960・70年代のナショナル・プロジェクトによって築いた日本のプレゼンスといったこれまでの遺産が風化する前に、日伯経済関係を再活性化する必要がある。

  9. 小西駐ペルー大使
  10. 本年4月の大統領選挙では、フジモリ大統領が3選を果たすだろう。大統領の政策の柱は、外資の誘致や民営化等による徹底した自由化と貧困層への取組みの2つである。安定した経済運営はIMFからも評価されている。
    また、中南米諸国が全体として欧米との関係を重視しているなかで、ペルーはAPECのメンバーとして、アジア諸国との関係の強化を目指している。

  11. 国安駐ベネズエラ大使
  12. 昨年2月に誕生したチャベス大統領は、腐敗の根絶を目指して大胆な政治改革を行ない、昨年12月には最大の選挙公約であった新憲法を公布した。現在では国民の80%を占める貧困層が大統領を支持している。
    昨年12月には、大雨による水害が発生し、数万人の死者が出たと見込まれる。今後は、道路、鉄道、住宅、上下水道の復旧が課題となっている。

  13. 鹿野駐コロンビア大使
  14. 麻薬問題については、米国政府からの16億ドルの支援、近隣諸国からの協力を得ながら、代替作物の開発などによる解決を目指している。
    40年近く続いている左翼ゲリラの問題は、徹底した話し合いによる解決が図られており、時間はかかるだろうが、全体として良い方に向っている。
    経済面では、昨年は数十年ぶりにマイナス成長となったが、今後は財政改革と並行して景気回復が進むと思われる。

  15. 藤島駐パナマ大使
  16. 昨年5月の選挙で女性のモスコソ大統領が当選し、7月の経団連ミッションが日本からの代表として初めて会見した。
    昨年12月31日にパナマ運河が米国より返還された。運河の運営、通航料の値上げの問題は顕在化していないが、運河の安全保障については懸念が残る。運河と共に返還された両岸の土地、港湾において、米国、台湾、中国などの企業は、積極的に開発を進めており、日本企業も検討して欲しい。

  17. 田中駐キューバ大使
  18. 昨年11月の、日本キューバ議員連盟と日本キューバ経済懇話会の合同ミッションは、両国の関係において歴史的な成果を挙げることができた。特に、公的短期債務のリスケ問題が解決したことは重要である。
    近く短期貿易保険の再開が実現する他、ODAによる経済協力の進展など両国経済関係の強化に向けた環境作りが進んでいる。

  19. 田中駐メキシコ大使
  20. 本年7月に予定されている大統領選挙戦は、現与党であるPRI(立憲革命党)のラバスティーダ候補が有利に進めている。
    過去の大統領選挙のたびに訪れた経済危機は今回は起きないと思われる。経済指標は好調であり、マクロ経済は慎重に運営されている。米国経済、石油価格、銀行の不良債権といった不安材料もあるが、当面は心配ない。
    EUとメキシコの自由貿易協定が本年の夏に発効する予定であり、日本企業は、重電、通信、鉄鋼などの分野で競争上かなり厳しくなる。こうした意味からも、日墨自由貿易協定を真剣に検討していく必要がある。

  21. 重家在米大公使
  22. 米国と中南米の関係は非常に緊密化している。特に米国は、中南米における民主主義の進展、麻薬問題の解決に注力している。
    経済面では、近い将来に対中南米の貿易額が、対欧州・対日の合計貿易額を上回るようになるだろう。
    また、米国のヒスパニック系の人口は3,000万人といわれ、大統領選挙に影響を及ぼすほど有力なマイノリティとなっている。


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