経団連くりっぷ No.119 (2000年2月24日)

農政問題委員会 森林部会(部会長 山口博人 住友林業会長)/1月27日

林業の現状と新たな林政の枠組み

−林野庁林政部 高橋課長よりきく


昨年7月、林野庁長官の私的懇談会である「森林・林業・木材産業基本政策検討会」より「森林・林業・木材産業に関する基本的課題」と題する報告が公表され、現在新たな林政の枠組みについての検討が進められている。そこで当部会では、林野庁林政部の高橋 賢二 企画課長を招き、説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 高橋課長説明要旨
    1. 森林・林業・木材産業をめぐる情勢
    2. 高度成長期を通じて拡大基調にあった木材需要量は、1973年の1億2,000万m3をピークに、その後は1億m3前後で推移してきたが、1998年は新設住宅着工戸数の大幅な減少等により9,200万m3まで低下した。一方供給量は、輸入木材が増加傾向で推移するなか、国産材は減少し続けており、自給率は2割程度にまで低下している。また近年、輸入木材に占める製材品の割合が大幅に増加している。
      木材価格は1980年をピークに低下傾向で推移している。特にスギ立木価格は、ピーク時の2分の1以下(1980年:22,707円/m3→1998年:9,191円/m3)にまで低下し、30年以上前の価格をも下回っている。
      わが国の森林面積は、2,500万ha強の水準で推移しており、このうち人工林面積は過去30年間に793万haから1,040万haに増加し、森林面積全体に占める割合は32%から41%に増加している。また、森林蓄積は人工林を中心として増大しており、近年は毎年約7,000万m3ずつ増加している。森林蓄積に占める人工林の割合は、過去30年間に30%から54%に増加している。また、森林面積の69%、蓄積の74%が民有林であり、このうち面積の46%、蓄積の62%が人工林となっている。戦後植えられた人工林を中心に資源内容が充実しつつあり、近い将来伐採可能な時期を迎える。しかし、現在は、保育、間伐が必要なものがピークを迎えている。
      1964年に制定された林業基本法は家族林業的な概念を打ち出したが、農業と異なり、林業は規模拡大のインセンティブが弱いため、依然森林の保有形態は小規模零細構造となっており、また、農地と異なり、森林は常に管理が必要ではないこともあり、特に最近は、不在村者の所有地が拡大し、管理が適切に行なわれていない事態が発生している。
      加えて、森林の機能に対する国民のニーズは多様化する傾向にあり、世論調査では、「山崩れや洪水などの災害防止」は一貫してトップにあげられているが、「木材生産の機能」は低下傾向にある。また、近年「地球温暖化防止に貢献する働き」が上位にあげられている。
      木材産業の状況としては、住宅建設に関しては、耐震性や断熱性といった機能に対する要請が高まっており、住宅用の木材に関しても寸法精度や強度といった性能面で優れたものに対するニーズが拡大している。集成材は、強度が明確で寸法の変化も少ないことから需要が増大している。また、木材の乾燥は、このような住宅に対する消費者のニーズに対応する上で重要であり、製材品生産量に占める乾燥材の割合は年々高まりつつあるが、乾燥コストの問題もあり、依然として1割弱の水準であり、米国と比較しても非常に低い。

    3. 森林・林業・木材産業基本政策検討会報告
    4. 「森林・林業・木材産業基本政策検討会」は、昨年5月に林野庁長官の私的懇談会として発足し、7月に報告を行なった。
      今日、公益的機能を中心に森林に対する国民の要請が多様化・高度化する一方、林業・木材産業の採算性が悪化する中で、森林の管理が十分行なわれにくい状況にあり、林業基本法における「公益的機能は林業の振興を図る結果として発揮される」という、いわば「予定調和」とでもいうべき考え方の前提が大きく変化してきている。そのような状況の中、林政の基本的考え方を木材生産を主体としたものから、将来にわたり森林の多様な機能を持続的に発揮させるための森林の管理経営を重視したものに転換する必要があると提言されている。
      また、報告書では、

      1. 多様な機能を持続的に発揮させるための森林の管理、
      2. 森林資源の循環的利用、
      3. 山村地域等の活性化、
      という3つの視点から、
      1. 多様な機能の発揮に向けた森林整備、
      2. 森林の管理・経営を担う林業の育成、
      3. 循環型社会の形成に寄与する木材産業の体質強化、
      4. 森林・林業・木材産業を通じた総合的・重点的な施策の展開、
      5. 山村の振興、
      の5つの基本的課題を提示している。
      一方、自民党でも、昨年末、森林・林業・木材産業に関する基本政策の確立に向けた論点整理が行なわれ、間伐対策、木材利用推進対策等緊急を要するものについては、来年度予算において重点的に対応を図ることとした。
      今後も関係省庁と連携をとりつつ、本年中に新たな基本法のあり方を含む政策大綱を取りまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出すべく検討を進めていきたい。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    今後の林政改革に際し、自給率を以前の水準に引き上げる努力も必要ではないか。
    高橋課長:
    外材との競争力を高めて、国産材の利用促進を図ることがまず必要である。

    経団連側:
    間伐の必要性などを中心として、林業を取り巻く問題を広く国民に対してPRする必要がある。
    高橋課長:
    森林・林業に関する適切な教育を含め、情報を正確に国民に伝えていくための努力をしたい。

    経団連側:
    林業を取り巻く厳しい状況を考えると、政策の速やかな見直しが必要である。また、国土保全の観点からは森林を自然の状態に引き戻すことも考えるべきではないか。
    高橋課長:
    国民の森林に対する関心は高いが、現実との間に大きなギャップがあり、そのギャップを埋める努力が必要である。また、人工林を放棄した結果、種々問題が生ずることがないように対処することが必要である。

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