経団連くりっぷ No.119 (2000年2月24日)

産業技術委員会 バイオテクノロジー部会(部会長 山野井昭雄氏)/1月19日

完全長cDNAライブラリーから創薬へ


現在、世界各国において、病気の発生原因やメカニズムを根本から解明するため、ヒト遺伝子情報の解析による、画期的な新薬や治療法の開発競争が激化している。そこで、当部会では、ヘリックス研究所の増保安彦所長より、ゲノム研究の動向や新薬開発への応用について説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 米国のゲノム研究の動向
  2. 米国は、8つの目標(ヒトDNA配列、遺伝子機能の解明技術、倫理・法律・社会問題、バイオインフォマティクス、研究者の育成等)を掲げ、2003年までの5ヵ年計画の国家プロジェクトとして進めている。同時に、米国ではベンチャー企業が巨大企業と提携し、活発にゲノム研究を進めており、これらが米国の底力になっている。

  3. ヘリックス研究所の研究内容
  4. 当研究所は、基盤技術研究促進センターと民間企業の出資による研究機関であり、ヒト完全長cDNAの収集、バイオインフォマティクス、DNAマイクロアレイ等、新規遺伝子の機能解明に関わる研究を行ない、最終的には特許を取得して、医療、環境、食糧、情報産業に役立てることを目的にしている。

    1. 完全長cDNAライブラリー
    2. 産業化を考えた場合、ゲノム上に約5%存在する遺伝子部分を如何に多く集めるかが重要である。機能を明らかにするには、完全長cDNAを集積する必要があるが、米国ではヒト遺伝子配列を断片的に解析し、全体を推測する方法を採用している。しかし、部分的に配列を解明できない等問題がある。そこで当研究所では、東京大学が開発したオリゴキャップ法を用いて、完全長cDNAを採取している。その結果、公共データベースのUniGene(1999年7月現在)と当研究所ライブラリー(同3月現在)を比較すると、全配列数は約120万対約10万であるが、完全長cDNA数で比較した場合、約6,500対約7,800となる。

    3. バイオインフォマティクス
    4. 当研究所では、ヒト遺伝子配列の完全長の解析データベースと立体構造の予測を進めている。今後2年間をかけて統合したデータベースを構築する予定である。

    5. 遺伝子機能解析:DNAマイクロアレイ
    6. 遺伝子発現情報の解析として、汎用性の観点から、ヒトとマウスのDNAマイクロアレイ等を研究している。同時に、「戦略的ヒトcDNAゲノム応用技術開発」というコンソーシアムを組織し、東京大学医科学研究所、かずさDNA研究所、民間企業30社との間で積極的な共同研究を進めている。

    7. 新薬開発への応用
    8. 創薬プロセスでは、ゲノムは創薬ターゲット分子の探索、たん白質の立体構造解析、遺伝子発現の解析等の局面で大きな影響を与えるが、後続のわが国としては何らかの知恵を盛り込まないと勝ち目はない。


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