経団連くりっぷ No.120 (2000年3月9日)

ヨーロッパ地域委員会(共同委員長 森川敏雄氏)/2月24日

これからも目が離せない欧州情勢

−駐欧州各国大使との昼食懇談会を開催


欧州大使会議に出席するために一時帰国中の駐欧州各国大使、および東郷 和彦 外務省欧亜局長、田中 均 同経済局長等を招き、欧州諸国情勢を中心に説明をきくとともに懇談した。深化・拡大を進める欧州は、今後世界経済の中心的役割を果たすマーケットの一つであると考えられており、官民が情報と知恵を共有することで日欧関係の更なる強化が必要であることを、改めて認識した。

  1. 今井会長挨拶
  2. 1年前に欧州11ヶ国で導入されたユーロは順調にスタートしたが、現実の為替相場は欧州の経済実態より安く推移している。できる限り早くユーロが実力相応のレートで落ち着くことを期待している。
    欧州にはEUの深化・拡大の問題はじめ、英国のポンド高やユーロ参加の問題、独の税制改革や仏の35時間労働制など、日本産業界と密接にかかわる事柄も多く、今後の動向に目が離せない。
    さらに、WTO交渉再開のために日欧が協力関係を強化していくことが必要である。また、産業界レベルでの積極的な意見交換も引き続き行なうことにより、グローバル化する世界経済での日欧の役割を果たしていくことが必要である。

  3. 田中外務省経済局長挨拶
  4. 欧州では現在、深化・拡大の動きが進行しているが、この流れは欧州の平和と安定を目指す欧州人の知恵である。
    グローバル化が進行するなかで、日本は諸外国とどのような関係を構築していくことが望ましいのか、対外経済活動を行なっていく過程において「能動的な」姿勢が求められている。
    その観点から、官民が情報と知恵を共有することは有意義であると考えている。

  5. 林駐連合王国大使説明
  6. 英国でのユーロの評価について、シティとしてはユーロはうまくいっていると考えている。ユーロ建債券の発行高についてもシティは欧州域内で最も多く発行しており、ユーロ域外にいてもユーロの恩恵を十分に受けていると考える傾向にある。国民レベルにおいてもユーロ安の影響を受けなくてよかったと考えているようである。また、もともと英国には欧州大陸と一線を画したいといった空気も存在するため、最近の調査では国民の69%がユーロ参加に反対、また約30%が英国は欧州から離れるべきであると考えている。
    ただ英国政府としては、近時、英国とユーロ諸国との経済サイクルが一致しつつあることから、予定通り総選挙後の国民投票により参加についての決定を行なうことを改めて表明している。ポンド高については、現在1ポンド=3.2マルクとなっており、このレベルは産業界にとって厳しい状況と言わざるをえず、2.6〜2.8マルクの水準が妥当と言われている。

  7. 久米駐ドイツ大使説明
  8. ドイツでは、これまでの輸出主導による成長から、民間の設備投資や個人消費の増加による成長に変化しつつあることは好ましい傾向であるが、依然としてユーロ安の問題や高失業率など解決すべき課題も多く、構造改革が急務である。
    その解決策の一環として、大規模な税制改革を実施することを決定し、2001年から段階的に導入していく。
    今回の改革では、個人税分野においては、所得税の最高税率と最低税率を低下させることにより、個人消費の拡大を目指している。一方、法人税分野においては、留保利益にかかる税率を現行の40%から25%へ、配当利益にかかる税率を30%から25%へ低下させることで、企業利益の内部留保を促し、設備投資を促進する。また法人保有の株式売却に伴なうキャピタルゲイン課税の廃止も含まれており、これにより産業界の合併や買収が加速すると考えられる。
    今回の税制改革は、環境税など一部項目で増税となっている部分もあるが、全体として減税を目的にしており、今後、企業の立地が期待される。

  9. 小倉駐フランス大使説明
  10. フランスでは週労働時間を39時間から35時間に短縮することで雇用の増大を目指しており、この制度を採用する企業に対しては社会保障費の一部を政府が負担するといったインセンティブが含まれている。
    本制度について労働者側は、自由時間が増えるとともに、短縮された4時間は超過勤務扱いになることから賃金増につながることを理由に、賛成する声が多い。反対に使用者側は、効率性の低下により国際競争力が落ちること、雇用の増大により結果的に社会保障費の負担が大きくなる(社会保障費は従業員数により決定される)ことから反対意見が多数を占める。フランスではストは日常的に行われているが、最近はこの労働時間短縮による使用者側のストが多発している。
    今回の制度改定は、フランスの好景気を背景に行なわれることもあり、今後、景気が悪化したときに制度存続が可能であるのか、不安要素があることも否定できない。
    この週労働時間の短縮は雇用の創出を目的としているが、公務員については人員削減が行われている最中であり、その取扱いは微妙である。

  11. 木村駐EU日本政府代表部大使説明
  12. EUは現在、新規加盟候補国と交渉を行なっているが、この拡大プロセスをスムーズに進めるためには、現行のEUルール等の変更は避けられない。なかでも特に問題となるのは、「特定多数決の方法」「特定多数決で決定できる範囲」「欧州委員会委員の配分方法」の三点であろうと考えられる。
    また、現在交渉が行なわれている加盟候補国は、経済状況も決して良いとはいえず、さらに条件のハードルも従来より高くなっているため、困難な交渉となることは否めない。プロディ委員長は、自らの任期である2005年1月までに数か国の加盟実現を目指しているようであるが、大きな痛みを伴うことも予想される。
    欧州の将来像については「広く浅い欧州」か、深い関係で結ばれる国々とそうでない国々が混在する「二重構造の欧州」のいずれかになると考えられる。いずれの方向に進むにせよ、欧州の深化・拡大は長い目で見ていくことが必要である。
    オーストリアで極右政党が政権参加するなど、状況が変化しつつあるが、EU加盟については永久条約と考えられており、途中で追放や脱退を規定した条文は見当たらない。


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